今話題の/嫌い/ケチャねえ

 

「はい、あ~ん」

 

きた。ついにきた。公共も私的も気にしない男女二人組がやってきた。

 

 

 

5月から始めた飲食店のアルバイトにもすっかり慣れ、むしろ働くことにマンネリ化さえ感じ始めていた12月のこと。私のアルバイト先は一般的に言うとちょっと高めの百貨店の中に入っている、あるレストランで、普段は人があまり入ってくることはない。しかし、12月はクリスマスが近いということで多くの家族やカップルたちでにぎわっていた。

 

男女二人組が来店し、メニューのオーダーを私がとりに行った。近づいてみると、男性のほうは20代前半といった見た目で、スーツをきていたのでおそらく社会人であろう。スーツもきちっと着こなし、スマートな雰囲気をかもしだしているため、そこそこモテそうだという印象だ。女性のほうは男性よりも年上で、品のある黒のシルクのワンピースに身を包んでおり、艶っぽい大人な印象であった。

 

「本日のお魚料理と牛肉のステーキを1つずつください。すみません、おさかなに入っている骨は全て抜いてくれるかしら。」

 

女性のほうがソプラノまじりの声で注文をした。

お客様に出すおさかなには、クレームが出ないようもともと骨はのぞいてあり、骨をとってくれといった注文をする客は、今までも、お年寄り数人しか出会ったことがなかった。やはり、大都市横浜は様々なお客様が来るのだなぁと思うくらいで注文を淡々と繰り返して、深いことは特に気にしなかった。というより、ほかのお客様で店内がにぎわっていたため、気にしているひまなどなかった。

 

 

 

 

料理を運んでからだ。例の事件が起こったのは。午後8時が近づき、客足も減り始めたので店内全体を見渡すと、女性が男性の口に、一口サイズに切られたお魚を食べさせてあげているではないか。まわりにいたカップルたちもちらちらと戸惑いを隠せないような目で見る。

といっても一アルバイターの私にその行為を阻止する権利などないため、ただ過ぎる時間を待つのみだった。

 

突然、女性のほうが大きな紙袋に手を突っ込み、くすくすと笑い始めた。紙袋の中からは、メンズ用のパーカーが出てきた。プレゼント交換かぁと思いながら眺めていたが、男性は何も用意していないようだ。もう少し男性のほうも配慮が必要じゃないかとも感じたが、それぞれのルールややり方があるのだろう。

 

 

そんなぼんやりとした時間が急にとまり、目も当てられない2人組に変わったのは、

 

「お母さん、ありがとう。」

 

 

母と息子という関係に気づいてからだった。

それからは母親が息子に向ける目は異性を見る目にしか見えなかった。

 

これを世間一般にムスコン(息子コンプレックス、俗にいうマザコンの対義語)と呼ぶらしい。残り3時間で終わりそうな一日は、嫌悪感にすべてもっていかれた。

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「今話題の/嫌い/ケチャねえ」への3件のフィードバック

  1. 仄かにあった微笑ましい感情が最後に吹き飛びました。男の人が果たしてどうやって生きてきたのか知りたいような知りたくないような。お疲れ様です。
    改行が少し多い気がしたのでもっと詰めても良いと思います。面白かったです。

  2. 背筋ががっつり粟立ちました。たしかにすべてを持っていかれますね。老けてみえない母親がすごいのか、息子の精神構造がヤバいのか……。
    公共と私的という部分は〜空間までつけないとわかりにくいと思います。

  3. 最初の一文で、何が「嫌い」なのかわかりやすく、文章に入っていきやすかったです。
    誰もが感じたことのあるであろうありふれた嫌悪感が、ちゃんとひとつの物語として語られていて面白かったです!

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