逆位置の戦車/嫌い/Gioru

「なぁなぁ、お前って好きなやつとかいないのか?」

年を重ねるごとに、何かとこういう話題を振ってくるやつがいる。いないといえば嘘になるが、だからといって本当のことを話す気にもならない。そもそも話したところでどうなるというのだ。自分の知らないところで勝手に広められて、それが本人の耳にでも入ったらたまったものではない。

それが嫌で何とかごまかしてきたのだが、ある一人の友達の会話からどうしても振り切れない時があって、俺はほかの男子どもが、みんな可愛いと言っている子の名前を口にした。

「あー、確かに可愛いよなぁ。なんか、こう、守ってあげたくなるっていうかさ――」

そのまま友達はいかに彼女が素晴らしいかを語り始めてしまった。正直言って、俺は彼女のことが嫌いである。いつも周りの反応を気にしているように見え、おどおどしているような印象を受ける。何か言おうと口を開こうとしても、それが周りの意見とは違うのか口を閉ざしてしまう。そんな態度が気に食わない。ほかの男子どもには、そんな姿も儚く見えてしまって、保護欲のようなものがでるらしい。

 

そんなことを考えていると、突然大きな笑い声が教室に響いた。

視線を向けると、教室の真ん中あたりにいる、女子のグループが目に入ってきた。よほど面白いことでもあったのか、大声で笑う以外にも机をバンバン叩いているやつもいる。

「ああいう女子ってやだよなー、絶対合わないって。まわりの迷惑も考えないやつとか嫌いだな。あんな大声じゃなくてもしゃべれるだろうに」

気持ちよく話していたのを邪魔されたせいか、友達はかなり不機嫌そうにつぶやいていた。興が削がれたのか、その後は特に話が発展することもなくお開きとなった。

 

その次の日朝、

「やべぇ、あの子マジでいいんだけど。話は面白いし、ノリがいいし。彼氏いるのかなぁ、いや、いてほしくない!」

先日大声で騒いでいた女子たちのうちの一人を、俺の友達は手のひらを返したかのように絶賛していた。

おいおい、昨日までの嫌い発言はどこ行った。

呆れている俺の顔は目に入らないのか、なおもその女子への称賛を続ける友達を適当にあしらって、俺は自分の席に戻った。

 

朝からうんざりとさせられた気持ちを何とか抑えて1時間目の準備をしていると、ふいに肩を叩かれた。振り返ると、俺が嫌いなあの子が立っていた。

「すいません、あなたは数学が得意だって聞いて。今日の宿題でわからないところがあって、その、教えてくれませんか?」

嫌いではあるが、だからと言って断る理由もない。彼女の躓いている個所を確認して、少しヒントを出してみる。彼女は物分かりが良いのか、すぐにどうすればいいのかに気づいたらしく、すらすらと問題を解いていった。別の問題でも同じようなやり取りを繰り返し、わからないところは素直に聞いてくる。それに俺が答え、はっとした表情をした後に、上手くいったのか笑顔になる彼女。このやり取りは何処か楽しいものであった。

「本当に助かりました! とっても丁寧でわかりやすかったです。ありがとうございました」

笑顔でそうお礼を言う彼女に、やはり悪い気はしない。自然とこちらも笑顔になる。

「また、わからないとことがあったら教えてもらっていいですか?」

もちろん。そんなやり取りをして、彼女は離れていいた。

 

それから先、俺は、嫌っていたはずの彼女と何回も会話をして、その会話は苦痛ではなく楽しいものであると感じていることに気づく。嫌いというよりはむしろ好きである。結局あの友達と同じようになってしまった。

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「逆位置の戦車/嫌い/Gioru」への2件のフィードバック

  1. 結局人の好き嫌いとか得意不得意ってどこかタイプわけできない部分ありますね…、とってもわかります。
    文章としては、自分視点をでありながら出来事を淡々と述べている印象なので、ということはつまりどういうことなのか、まで考察があったらもう一つエッセイとして面白かったのかなと思いました。

  2. 人の評価って一変しますよね、とくに嫌い→好きあるいは好き→嫌いはよくあると思う。どっちも感情が強く動いていて、紙一重ですもんね。わかります。

    読み応えがなかったかな、あーだよね、で終わってしまうというか、説明したいのか、エピソード重視なのか。そこが気になった。

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