とりかへばや/百合/染色体XY太郎

「ぎゅっとしていい?」
彼女はゆっくりと頷く。
ソファに座った彼女をそっと、壊れてしまいそうな彼女をそっと抱き寄せる。
ふわりと香るシャンプーの匂い。私と同じシャンプーの匂いが無性に嬉しくて、思わず抱きしめた手を強めてしまう。
触れた彼女の体は程よい温かさで、もっと触れていたくてもぞもぞと動くけれど、上手くいかなくてもどかしいと思う。
彼女と私の接地面は誰の物なのだろう。そんなことを考えると、一つの、なんだか綺麗な、あたたかな、塊?いや、もっともあいまいな、気持ちのいい、春の日差しのような、そんな何かになった気持ちがして、愛おしくてたまらなくて、もう、好きという、陳腐だけれどそんな言葉で頭がいっぱいになる。バカになってしまったように。
彼女の顔が見たくなって、覗き込むと、それに気づいた彼女が、笑って目をそらす。楽しくなって、なんとか目を合わせようとするけれど、その度に彼女は顔を背けて、その様子がハムスターみたいで可愛い。

でも、そんな嘘みたいな多幸感の中でも、それを見ている私が何処かにいて、「あなたは、幸せになれるような人間なの?」と嘲るように見つめている。私はそれから目を背けて、聞かないようにするけれど、彼女の体に顔を押し付けて、見ないようにするけれど、瞼の裏にもその姿は消えなくて、目を潰したくてたまらない。
でも、知ってるんだよ。そんなこと。ずっと知ってた。
でも、言えない。このままでいたい。今が幸せで幸せで、幸せすぎて怖くてたまらない。そんな風に生きてきた。でも何年もかけて、木の年輪みたいに重なった罪悪感に押しつぶされそうだ。
本当は彼女に嫌いになって欲しいのかもしれない。でも、嫌いになってほしくなんかない。嫌だ嫌だ、嫌い嫌い。

頬を突かれる。
見ると、彼女がいたずらっ子みたいに笑っている。
やっぱり私は彼女が好きだ。
だから、私は鈍感になる。何にも見ないように。目を瞑って。魚みたいに目を開けたまま眠っている。いつまでもいつまでも、幸福の中で溺れていられるように。

君はまた悲しそうな顔をしてるね。
そんな君に惹かれて、好きになったんだよ。
知ってるよ、君が内緒にしてること。
背中に当たってる君の熱。
もしかしたら、幸せになれないかもしれないね。
でも、

「……チューしていい?」
「ダメ〜」

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「とりかへばや/百合/染色体XY太郎」への4件のフィードバック

  1. とりかへばや物語は男女の入れ替わりの古典ですが、叙述トリックを仕掛けようとしてテーマで損した感じでしょうか。最後から二番目の段落は相手の視点であっていますか?
    主人公が男女どちらでも読める、男女間の違いをなくすほうに持って行ったのは面白いなと思いました。的外れかもしれませんが。ただシンプルすぎると思ったのでもっとひねってもいいと思います。

  2. 先週喧嘩を売った以上今週も宣戦布告の続きをしなくてはいけないのかなと思いつつ、純粋に下駄さんがどんな感情を持ちながらこれを書いたのか気になります。私の敵対心故におかしなバイアスをかけてしまっている可能性があるので、けちょんけちょんに批判したい気持ちと一語一句違わず君の話を聞いてみたい気分が混ざっている。作家の顔や声を知っている以上、作品を作品単体としてみることは、どうやら私にはできないようです。
    今回の課題はどうしようもなく「意識された文章」から離れることはないように読めてしまって、別にリアルじゃなくてもいいし世間的にも社会的にも間違っていてもいいから、下駄さん本人の言葉が聞いてみたいと思います。人間って、わからない。

  3. 下駄!いいぞ!なんか私が前回一緒になった時の文章よりはるかにエロいぞ!叙述トリックとか私には全然わかんなかったけど!
    ところで、ここでの幸せになれないとは何を指すのでしょう。ものすごく単純に考えて女の子が女の子に恋をすることなのでしょうか、それとも自分という存在にそんな価値はないということなのでしょうか。
    あと、よく女の文章は論理がない(結論)がないと言われたりした気がするのですが、なんかたぶん男の文章の過程と結論とは違う種類の過程と結論があるのではないかと思いました。少なくとも、この話はフワフワしすぎているような。曖昧な文章と言われるものでも、裏に確固たる何かがあってその何かに共感(?)できるからわかる、みたいな。なんだろう、女の文章があるとするなら感情を追いかけていて、その感情の原因について掘り下げられることによって言われていることの意味が分かるようになるのでは。まとまらない。桐野夏生を数日前に読んだ身としてはそう思います。彼女は感情の論理で人を殴ってくる。

  4. タイトルと文章をつなげることがうまくできなかったのは私の能力の低さな気がしますが、何度読んでもつなげられませんでした。ただ、文章から伝わるなんとなくアダルティーな感じはとても好きです。秘め事感!
    その大人っぽい感じが最後の会話で中和されている(チューだけに)のも、一つの味な気がします。

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