こんくらべ/百合/フチ子

「胸重たい、痛い」
「予定日いつ?」
「明日」
「もうすぐだね」

となりに寝そべる由美の胸はいつもより少し張っていて、弾けてしまいそうだった。今日もたくさん歩いて、たくさんの人と話して、疲れてしまったけれど、最終地点がここなら、いい日だったように思う。

「むくみもひどいの、今回、さわって」
「ほんとだ」

由美の細くきれいな脚が、ほんの少し固かった。こういうとき、きまって由美は機嫌が悪い。今日、ご飯食べながら愚痴が2割り増しだったのも、お風呂にいつもより多く入浴剤を入れてしまっていたのも、そのせいだろうか。

「家の近くでね、昔の同級生に会ったの。まだ26歳なのに、少し髪が薄かった。いやな気分になっちゃった」
「いやな気分?」
「そう、もっと気を使いなさいよって」

その2人の姿を、偶然私は見ていたけれど、どうにもいやそうには見えなかった。それが由美のよそ行きの顔だとしても、楽しそうだった。

「もう26でしょう。わたしたちもちょっとずつ老けてるのよ」
「そうだけど。彼、結婚したらしくて、その幸せにかまけてるの、たぶん」

そう言ったときの、由美の表情をちらりと観察する。よかった、「残念」といった感情は見てとれない。由美と彼を見たときから微妙に感じた強張りが、ほどけていく。

もう彼女と8年も一緒にいるのだから十分わかってる。彼女は男の人を好きにはならないし、私のことは大事に思っているし、特別であることくらい、わかってる。わかっているつもりでも、いつか「普通」の女性に戻ってしまうのではないか、今が「異常」なのではないかと、たまに、不安になる。

「美咲、今日なんだかいやなことでもあった?」
「ない、と思う」
「ならいいけど。実家にはたまには電話しなきゃだめだよ、どんな場合でもね」

母は私のことを理解はしなくとも、否定はしない。ありがたく感じていたのに、最近は億劫になって電話をしていなかった。そんな話していないのに、由美の鋭さはいつも感心する。

「まあわかるけどね〜、だれだれちゃんが結婚したって聞いたわよって、言われる続けるの面倒だしね」
「だね」
「昔好きだった子の名前とか出てくるよね」
「だよね」

その重圧に、負けてしまわないか。由美も、わたしも。そんな不安がこびりつく。「おともだちとして」好きな男友達と一緒になった方が楽なんじゃないかとよぎった10日前、由美とわたしの結びつけるものってなんだろう、と純粋に考えたりした。

「あと20年もすれば、本当の意味で諦めるでしょ」
「半分はすぎたかな」
「すぎたすぎた。眠い、寝よう。」

そうだね、と心の中でつぶやいて、わたしも寝そべった。

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「こんくらべ/百合/フチ子」への5件のフィードバック

  1. 予定日と書いてあるので、てっきり妊娠でもしてるのかと思ったが、そんなことはなかった。馬鹿っぽいが、何も知らない男の読み方なんてこんなものではないかとも思う。同時に、女性が読んだのならその後の展開も含め共感を得られるのだろうと根拠は無いが確信はある。異性愛への抵抗が主軸となっている辺りが特に女性ならではという感じ。あとは実家、すなわち家庭という形式への感情。自分で書いていてよくわからぬ。

  2. 私も予定日って聞いて、勝手に妊娠だと考えました。胸も張るらしいし。でもその後にそういった記述がないのでリードミスなのでしょうか?
    タイトルのこんくらべというのは誰と誰のこんくらべなのかというのも気になりました。色々とれますよね、母親と主人公とか、主人公と由美とか。実際に同性愛カップルに会ったことがないので分かりませんが、長く付き合ってても不安になるのかな…やっぱりそういうもんなのかな…

  3. こんくらべ、という題名が切ない。私はこの二人の関係がいつまでも続くものになるまでの期間、自分が「正常」に戻るか戻らないかまでの時間だと思った。だったらやっぱり切ない。百合の葛藤って世間のプレッシャーとかよりそういうところかもしれない。いっそのこと女だけ愛せるってわかったら辛くないというような。

  4. 他の皆さんが指摘しておられる通り、私も妊娠かなあと思いました。
    百合だけど子供が欲しくて体外受精して、みたいな話かなあと思って始めの一文で勝手に盛り上がりました。すみません。
    主人公は自分が女性を好きであるということ、内縁の妻的な彼女と暮らしていることが幸せでもあり辛いのでしょうね。
    世間からしたらセクマイは異常でしょうし、同性婚しか認められていない日本では結婚というワードはそういう方々に対してはプレッシャーでしょう。結婚を意識する26という年齢設定はとても良いと思います。
    幸せでありながら、何処か不安でやりきれない。
    大人のリアル(といっては妙ですが)な百合だなあって思いました。

  5. おっぱいが弾けそうって面白い表現で、今度から僕も使おうと思いました。
    読んでいて想起したのは「アデル、ブルーは熱い色」でした。見たのが1年以上前だったけど、確かレズビアンとストレートで葛藤する話だったと記憶。
    いつ自分の相手がストレートに寄ってしまうか、そういうリアルな問題が書かれていてよかったです。

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