望美は多分阿呆の子だ。
感情的で、すぐ泣くし、それなのに騒ぐだけ騒いだら何に傷ついたのか忘れてる。いやなことは全部「むかつく」で、感動は全部「やばい」だ。そこらへんの小学生の方が、まだ語彙力あるんじゃないかな。
そのくせ見た目はすごく派手。髪は色が抜け落ちて金より白に近くなってる。逆に肌は日焼けして真っ黒。将来絶対皮膚ガンになるだろう、賭けてもいい。
ほんと、年寄りがよく言う「ダメな現代人」の典型例なのだ。
私の言うことは何もかも鵜呑みにするし、私がこんな風に思ってることなんて知るわけもない。むしろよくこの17年間生きてこれたなと、呆れより先に哀れみが来てしまう。それぐらい、望美はよく言えば純粋、悪く言えば馬鹿だった。
「それなのに、なんでだと思う?」
私の声は、しんと静まり返った部屋の中で寂しく響いた。
さっきまでの明るさはもうどこにもなくて、憂鬱ばかりが沈んだ部屋。望美が残してった流行りのお菓子は居場所がなさそうに散らばっていた。
この静けさを壊さないようにそっと立ち上がる。
かちゃりと窓の鍵を下ろしてそのまま開くと、冷たい風が部屋の中に吹き込んできた。顔を出せば真っ暗な空には雲ひとつない。真冬の空気は澄んでいて、東京の空にしては随分星が見えた。普段はうるさい車の音も今日は聞こえてこない。
まるで、世界に私だけ取り残されたみたいだ。
星の名前は小学生のときにいっぱい覚えたけど、ほとんど忘れてしまった。ひときわ輝いて見えるあの星は、何だったかな。
風は身を切るように冷たい。耳や頬はあっという間に冷えてしまった。それでもゆっくり夜の空気を吸い込めば、肺がちりちり痛んだ。
退屈だったから適当に話しかけて、流れで遊びに行くことになって。結局高校で一番長く時間を共にしている。タイプは正反対なのに、妙にくっついてくる。登下校も、昼ご飯も、放課後も。望美は大好きとか親友だとか簡単に言ってしまえるから、私ももはやそれに違和感は覚えなくて、そんな関係がだらだら続いた。
「さむい……」
かじかんで感覚がなくなった指先をこすり合わせながら、窓を閉めて暖房の温度を上げる。もう一枚何か羽織ろう。望美と色違いで買ったセーターはどこにあったっけ。望美は黄色で、私は水色。
わかってる。本当は憧れてるんだ。
自分にはない無垢さや、星の名前と一緒に忘れてしまった純粋さや、素直に好きだと言えるその無邪気さが。
どんなに私が願っても、もう手に入らないその全てを望美は持っていた。
私が生きるために切り捨てたものを、彼女は大事に抱えて、目の前に現れたのだ。
「望美なんか、消えてしまえばいいのに」
そんなに眩しいと触れることすらできない。
手に入れようと近づいて、燃え尽きてしまわないように。
私は彼女のそばで、強がることしかできない。
明るくなりすぎた星は、消えるだけだと信じて生きてきた。
彼女の言葉に「私も」と言える日は、きっと二度と来ない。
偏差値がなんちゃらだったのに慶応大学に合格したギャルの話を思い出しました。
そういう子を尊敬してないつもりでもまっすぐさに惹かれることはあります。
でもそういう子が言う好きは、恋愛感情なのかと言われると違うような気もしました。
あと、ギャルが黒肌メイクでなくて本当に日焼けして黒いんだとするとちょっと心配になりました。
望美が直接登場しないのが少し物足りなかったが、それが全体の寂しさを助長している気もする。
同性愛という段階にはまだ至っていないような気もするけど、肉体的な愛情というよりは自分の意に反して憧れて、執着して、妬んで、苛立つみたいな方が、女性同士の間にわりと普遍的にある関係で、その危うさこそが百合の美しさや尊さに繋がるのかななんて考えさせられた。
ふとんちゃんのコメントが毎度そこかよというところに突っ込んでいておもしろい。
自分が持っていなかったり、なくしてしまっていたり、忘れてしまっていたりするものを相手が持っていると、羨ましくなったりすることがあるので、共感できる内容だな感じた。それが身うちみたいに近い存在だったら、より一層で、それをひた隠しにしながら付き合うというのはつらいものがあるなと思う。