乞い心/百合/温帯魚

短いけど明るい色の髪をしていて、身長が高くて、可愛いよりカッコイイと言われることのほうが多い。「ノッキンオンヘブンズドア」を借りて見ると必ず泣いて、ポッキーよりはプリッツのほうが好きで、困ったときに髪に触る癖がある。案外体がエロくて、実は爪の形が可愛くて、普通。
親愛なるアタシの友達。アタシが昔恋をしていた女。

 

「最近」
アタシは正面に座ったアイツに気を遣わず喉を震わせる。テーブルの皿は半分ほどが空になっていた。
「幸せになりたいとばっか考えてる気がする」
「なに、今は幸せじゃないの」奴はフォークを回しながら相槌を打つ。
「そういう訳じゃないけど」マジナハナシ、とアタシは呟いた。

恋愛は親愛の発展形だ。そうやって生きてきた私だからこそ、人魚姫なんてオトギバナシに共感する。アタシがアンタに恋していた時は、歩くたびに勝手に傷つく自分が気持ち悪かった。相手に言葉も傷も与えらない。そして泡となって消えることを選ぶのだ。積み上げたと信じてきたからこそ、壊してしまいそうで、怖い。そんな陳腐な言葉が現実、だった。そこにいるアタシと理想のアタシの差は、アタシがアタシを失望するのには十分すぎる。
臆病なあたしにとって愛っていうものは、だから、なんだ? 少なくともアタシは物語で泣く子供を笑えない。

「こうさあ、幸せってなんだって考えるわけですよ。ないじゃんそういうの。」アルコールを少し口に含む。良いワインが分かるようになって、果たしてアタシはそれをおいしいと思ったことがあったか。少なくともこのワインには幸せを感じない。
「こうなったら幸せだ、ああなったら幸せだって言われても、絶対そうはならないじゃん。余計なものとか足りないものとかがあって、それが、アタシ達を不幸にも幸福にもさせないというか」

複雑なものを単純なものに分けても本当は意味がないってことぐらい、アタシも生きてきたから知っている。アンタに恋したのはアタシ。女とセックスできないのも、アタシ。
アタシがどんなふうに生きれていたら、アンタにセックスしてと言えたのだろうか。でもアタシは今を不幸とも言いたくない。なんで?

「酔ってる?」アイツは眉も動かさず聞いてきた。酔ってると答える。
「私のパスタ、一口上げるから期限直しなさい」なんだよー、かまえかまえと駄々をこねながらキノコとクリームのパスタをいただく。おいしい。
「アンタ意外と脳筋よね」飲み込んでから軽口を叩くと奴はにっこりと笑った
「私はあなたと居れて楽しいわよ」アタシは顔をしかめる。イイ女だ。

こいつはアタシの気持ちに勘付いている。女だから。それについてアタシは意外な程どうとも思っていない。女だから。アタシが勝手に失恋した。それはアタシたち二人に何の影響も及ばさない。なぜかは知らない。
訳わかんないことのほうが多いのだ。狭い世界で生きているアタシは、齢を食って変わっていくしかないんだろう。そしてこの結論も何週目だろうか。

 

結局アタシは、理解したつもりだけで生きていける。
「幸せになってみたいわ。できればアンタと」
心には響かないから、じゃれあうように口説くのだ。

0 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 5 (0 投票, 平均点: 0.00,  総合点:0  |  
投票する為にはユーザ登録する必要があります。
Loading...

「乞い心/百合/温帯魚」への4件のフィードバック

  1. これが主語がうざい問題か。以前自分も言われたことがあるが、非常にアタシという主語がうざい。量も多いし、カタカナで目立つし。もっと減らした方が視覚的にも良いのではないか。また、女の有り様というものが単純に描かれていて、少し怖い。男である自分でも違和を感じるのだから、女性が読んだ場合どうなるのだろうと思う。全体的には攻撃的でロックな印象を受けた。

  2. カタカナのアタシは、女子高生か、タバコを吸ってる大人のお姉さんの印象がありますね。そして漂うオトナな感覚。そんな感じで読んでいたらとてもロックな絵面になって、とてもカッコいいなと思いながら読んでました。なんかもうなんも言えない。
    温帯魚さんの文章はもうなんていうか本当にここで言うのもなんなんですけどとても好きでもう何がいいって音が!音がいいですね!声に出して読みたい文章だと思いますああもう好き。
    文章の内容もいつもとても好きなんですが、もうなんだろう、その世界観みたいなものに丸ごと骨抜きにされるくらい、私は好きです。たとえ中身のない文章を書いたとしても、もうそれすらもが歌になってしまいそうなその世界観はもう努力なのか才能なのかわからないですけどもうひたすらに美しい。羨ましい、ずるい、弟子にして欲しい。
    編集批評スタジオとして何の批評もできないの本当に申し訳ないのですが、もう自分が何言ってるかわからないくらい好きなので、一人くらい手放しで存在丸ごと褒めまくる人がいても許してください。ごめんなさい。

  3. アタシという主語はベッタベタのこってこてで、一昔前の安っぽいネオンみたいな感じがしてでもその雰囲気で繰り広げられる会話が、百合イメージの典型的な綺麗なものとは違っていていいと感じた。
    ただ、あなたの文章の力強さからあなたはきっとあなたの心にはたらく慣性で書いていることは伝わってくるんだけど、私がその内容を受け取れなかった。それは共通項をもっていないからかもしれないし、人魚姫についての項をもっと膨らましてもらえたらそこが分かったのかもしれない。

  4. アタシとアンタという、一人称と二人称が男勝りだけど結局女を捨てきれない、だからこそ女同士ということの葛藤と女々しさがガンガン響かせてきました。アタシの多用は個人的に好きでした。自分が自分がっていう、誰に言うでもなく、結局はやりようのない感情を自分に問うている風に感じたので。
    こーいうハードな雰囲気のする百合は割と好きです!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。