甘え/百合/きりん

洋子は多分、写真を撮ることにしか興味がない。そのこだわりようは、まるで必死でカメラにしがみついているかのようだ。
私のことも、たいてい近くにいる被写体あるいは人手、としか思っていない。サークルも入ってないし、勉強もしないから、なんで大学に入ったの?と前に聞いたら、親との交渉の結果なのだという。

彼女のかっこいいけど危ういところが、私は結構好きだった。

お昼休みのあと、今日も今日とて私と洋子は空き教室を占領してだべっていた。
「叶は肌が白くてきれいなのよ。光っているみたい」
私に向けられたカメラがひょいっとずれて、視線が合う。わずかに目を細めて、満足そうな顔だ。ゆるやかに弧を描く唇。肉々しい、ちょっと荒れた唇が低い笑い声を漏らした。
「さすがに発光はしないと思うな」
私も応えて笑った。

言葉が途切れる。私達の視線はサーチライトのように交差し続ける。人と目が合うというのは良いことだ。相手を感じる。

明るく静かな教室の中で見つめたり、見つめ合ったり、撮られたりしているうちに、不意にこらえきれない思いがして、私は彼女の目を捕まえ、とっておきのおねだりをした。
「ねぇ洋子。……私ね、いつか自分の半身を抱きしめてみたい。腰から下をぎゅーっと、向かい合わせで。肌が白いから、その断面もきっと綺麗だよ。そしたら洋子、私を撮ってよ」
そして私は静かに目を閉じて、自分の体から流れていく血液の音を聞くのだ。前からちょっとした理想だった。私の理想の終わり方。一度、一生に一度、最後の私を洋子に撮って欲しい。

「無理よ」

否定はたたき切るように強い声だった。
「なんでよ」
どんな写真も、あなたなら撮ってくれると思ったのに。

洋子は睨みつけるようにそっぽを向いていた。
その反応は激烈なのに、とてもゆっくり起こっていた。
「そりゃ綺麗でしょうし、とても見てみたい。けど……だって、そしたら、あなた死んじゃうじゃない。嫌よ」
その気弱な発言に驚く。彼女に何があったんだろう。でも冗談のつもりじゃなかったから、その切な声が真剣でちょっと嬉しい。

「私が若くてきれいなうちでないと……ね?」
「叶、やめてよ」
「え〜。……ケチ。写真バカのくせに」
「なんとでも言いなさい」

「遺書書いとくから」

「それでも殺人幇助じゃない」

「処理だけお願い」

「嫌……」

どちらからともなく腕をまわして、濡れた頬を重ねあわせた。

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「甘え/百合/きりん」への3件のフィードバック

  1. 相手の身体に関する表現が出ているあたりが百合っぽくていいんじゃないでしょうか。
    叶はどうしてこれほどまでに洋子に惹かれていったのでしょうか?絶対1行では収まらないはずです。なぜ洋子を求めるのかについてもっと突き詰めて書けばより面白さが増すのではないでしょうか。
    最後の「嫌……」は言葉が止まってしまった感じでしょうか。情景はなんとなくわかりますが、よりうまく表わせる表現があるのではないかと思います。

  2. 最後の方の会話の部分が気になりました。少し冗談交じりの会話が続き、その後に真剣な感じになるというのは分かるし、そこに行間を使ったというのも分かるのですが、あまりにもその展開が早すぎて違和感を感じます。もっと情景とか心情とか入れるといいのかなと思いました。

  3. 全体的に細かい描写が上手だなと思った。しかし、それだけに心情というか個々の物語が薄れている感じが勿体無い気がした。あと、独自の世界観があるのはいいと思ったがそれが読者にも伝わるような伏線というかヒントが無いと内容が十分伝わらないかなとも感じた。

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