神聖なる花畑/百合/ヒロ

 俺には憧れの人がいた。清川 由里子さんだ。彼女はクラスの中でも一番に可愛い人で周りからも人気がある人だ。俺も彼女が友達と話しているときに見せる可憐な笑顔に完全に夢中だった。だけど、俺の片思いはある日唐突に終わることになってしまった。そんな彼女の思わぬ一面を俺は見てしまったのだ。
 それは俺が部活の後に教室に忘れ物をしていたことに気づいて取りに戻ったときのことだった。取りに行くのは面倒だったが、忘れたのは明日の朝提出しなくてはいけないプリントで、しかもそのプリントを出したのは高校一厳しいことで知られている高田なのだ。提出できなかったらこの宿題が三倍に増えるのは確実。まあ忘れるよりは気づくことができて良かったのだろう。もう日が沈み始めていて薄暗い校舎の中は俺の恐怖心を少し刺激した。廊下に俺の足音が響く。どうやら誰も残っていないようだった。
「おお、あったあった。気づけてよかった」
 無事教室に着いて俺の机からプリントを回収した。そして、昇降口に向かおうとしたとき、ふと清川さんももう帰ったのかなと彼女の所属する家庭科部、その部室の家庭科室のある向こうの校舎に目をやって俺は目撃してしまった。
清川さんが彼女の親友である花宮さんとキスしている姿を。
「……え?」
息ができなかった。わけがわからなかった。清川さんがキスをしていることもだったが、その相手が彼女の親友の花宮薫さんという女の子だということがさらに衝撃的だったのだ。とっさに考えたのは見つからないようにしないと、ということだった。彼女たちが気づかないうちに俺は身をかがめて走り出した。足音は立てないように、向こうの校舎からみえないように。気づいたら俺は家に着いていた。それからはできるだけいつもどおりを心がけてその日を過ごした。宿題のプリントはやり忘れた。

その次の日、もしかしたら俺に気づいた清川さんたちが声をかけてくるかと思って注意していたがそうはならず、そのさらに次の日も、それからも清川さんたちが俺に注目している様子はなかった。俺があのキスを見る前と何も変わらず、清川さんは親友の花宮さんと他の友達と可愛く笑い合っていた。
俺はあのことを誰にも言う気にはなれなかった。あの光景は俺が侵してはいけない神聖なものであったように感じていたのだ。一度どうしても気になって、こんなことを何気なく聞いてみた。
「清川さん、ほんとに花宮さんと仲いいよね」
 彼女はきょとんとした後に、今まで見た中で一番可愛い笑顔で答えた。
「ええ。だって薫とは親友だもの」

 俺はそのまま彼女たちの関係の秘密を墓まで持って行くことにした。彼女たちの関係は周りからは良くは思われることはないだろう。それでも俺にはとても素晴らしいものだと思えるのだ。俺の恋は儚くも終わってしまったが、俺は彼女のあの友人たちと一緒にいて浮かべる笑顔に惚れたのだ。だから、彼女の笑顔が守られるのならばこれでいいのだ。
その後俺が百合ものにはまってしまったのは全くの余談である。

0 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 5 (0 投票, 平均点: 0.00,  総合点:0  |  
投票する為にはユーザ登録する必要があります。
Loading...

「神聖なる花畑/百合/ヒロ」への2件のフィードバック

  1. 付け足したように「宿題のプリントはやり忘れた」と出てくるのが面白かったです。
    清川さんと花宮さんの禁断の姿を見てしまった後に「彼女の笑顔が守られるのならばこれでいいのだ」と思っているって究極の片思いですね。

  2. 最後、百合ものにはまってしまったんですね…。百合を邪魔したくないというのはわかりますが、BLを邪魔したくないとはあまり思わない気がします。主人公目線の清川さんが可愛く、高校生の青春な感じが出ていてよかったです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。