シロップ

 

透明な色が好きだ。

 

香水瓶を手のなかでゆっくり傾けて女色の水面が揺れるのを一日中見ていられたらいい。

 

あんず飴を屋台の氷から取り出しても溶け落ちることなく、いつまでも夕空に透かしていられたらいい。

 

幼い子がつけるヘアゴムの樹脂の苺飾りをキャンディみたいに口で溶かせたらいい。

 

背伸びしたおしゃれなバーでアイスクリームにかけたメロンのリキュールをアクリルに固めて、キーホルダーにできたらいい。

 

ラベンダーの入浴剤を溶かしたお風呂でいつのまにかぶどうゼリーのホルマリン漬けになっていたらいい。

 

 

涙に色があればいい。

一人ひとりの色があって、涙が出たときの感情の動きが色の濃さに変わればいい。

色はそれぞれ違っても、心のフィルターに通されて、決まってどれも澄んでいる。

 

たぶん私の涙は灰色だ。

どの色も綺麗で大好きで、ひとつになんてとても決められないから。

虹色をかき混ぜた涙を持てるとしたら素敵だ。

そこにはお気に入りがぜんぶ隠されているのだ。

 

 

あの人の涙は、きっと青。

柔らかそうな髪の毛をきれいな金に染めていて、自分からは何も話さなくて、窓際でいつもどこか遠くの空を見ている。

彼の瞳は毎日たくさんの青色を吸い込んで、いまにも滴り落ちそうだ。

一生のうちのたった一粒でいいから、わたしにくれたりしないだろうか。

 

 

彼の瞳からこぼれた涙はしずく型にぎゅっと固まって、

トルマリンみたいにつやつやと透き通っている。

鉱石よりも透明で、ガラス玉よりも薄く壊れやすい。

テグスを結んでネックレスにして、ふとした拍子にどこかにぶつけてしまわないように、服の中に大事に隠して、いつも胸元にいてもらえたら、なんていいだろう。

 

 

もし、彼の瞳に私が映ったら、彼の涙は濁ってしまうのだろうか。

彼の青をもらうことが出来たら、それだけで満足すぎるはずで、汚してなんて欲しくないのだけど、

本当のほんとうは、心の奥底では、

私のと彼のとが同時にこぼれて、空中で重なり合って、澄んでいた青がほんのり灰に濁されたものが、欲しくてたまらないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「シロップ」への3件のフィードバック

  1. 歌詞のようで楽しかったです。これもよくある歌詞というか、漫画のセリフじゃないところに書いてありそうな、そんな感じだけど、わかるわかるーと思ってしまうものでした。好きな人を自分色に汚してしまいたくなる感覚はわかるけれど、自分の涙が灰色となぜ思ったのか気になる。

  2. 色使いが繊細でそれこそガラス玉みたいに何か危うい美しさみたいな印象を受けた。
    これだけ身の回りの透明できれいなものに関心が向いているのに、自分を灰色と評したところのギャップが特に印象的で、個人的には灰色となるまでの行間が気になった。

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