「その涙は、嬉しいから泣いてるの?」

この質問が一番苦痛だった。嬉しいから泣く、その意味がずっとわからないままでいる。嬉しかったら笑うし、わたしはそんなに複雑な愛情表現をできるタイプじゃないでしょう、わかってないのねっていやになった。

苛々と、怒りをどこにぶつけてよいかわからないときに流れる涙、悲しくて悲しくてどうしようもないときに流れる涙、痛かったり苦しかったりしたときに生理的に出る涙。わたしは涙の理由としてこの3つしか知らない。だから、誕生日のお祝いをしてあげた友達が「嬉しくて泣いてるの」と可愛らしく涙を見せるとき、困惑してしまう。女の子だなあ、と。

「女の涙は最終兵器として持っておきなさい、万能だから」

そんな言葉の意味も、いまひとつわからない。別れるか別れないかの大事な局面をファミレスで話していたとき、抑えきれずに泣いてしまったけど、彼は史上最強に迷惑そうだった。場所とときを選ぶってことなんだろうけど、本当に悲しいときって突然訪れるし、都合よく二人きりの空間になれないときだってある。いや、二人きりのときに泣いてても同じように迷惑がられた気がする。わたしの泣き方がだめなのかもしれないけど、やっぱり泣き顔なんてろくなものじゃない。

涙=女という感覚は根強くあって、男の人が泣いていると、ギョッとしてしまう。父が、母のお父さんのお葬式で目を赤くしていたのを見て、私は妙に落ち込んだし、どんなに偏屈な父親でも大事な人だなと思わされたりした。号泣なんてしていないのに、「見てはいけなかったものを見てしまったのではないか」という気まずさがあって、男の人の涙は本当に破壊力があるらしい。

私が彼を思っているよりも、彼が私を思っている方が明らかに強かったのに、最後まで彼が泣かなかったのは何故だろう。

別れようと言ったとき、自分の気持ちを振り切る為にも散々無情に、残酷な態度を取っていたのに、わたしはそうしながら泣きそうになって、結局滲んでいたのに、彼は悲しい顔をしてるくせに泣かなかった。泣かないで欲しい、泣いたら、本格的に離れられなくなると願っていたわたしとしては願ったり叶ったりだし、感謝をしているのだけど、少し物足りないというか、拍子抜けしたのも事実だった。

泣くほど感情を動かせる人とは滅多に出会えない。たまに出会う、心をぐちゃぐちゃにするような人は厄介で面倒だけど、貴重だとも思う。本当の意味でその彼を振り切ることができたのは半年以上経った最近のように感じがするのだけど、それでも、わたしに強く跡をつけた人であることは変わりないし、今隣にいる男も、これから散々と跡をつけてくるのだろうと、少しいやになっている。

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「跡」への4件のフィードバック

  1. たしかに人前で泣くと嫌がる男が多いと思います。でも、泣くくらい悲しんでいるところを迷惑そうな顔で見られると心が折れますよね。濫用しすぎたらそりゃ迷惑だろうけど、慰めてくれる男性に出会いたいです。
    迷惑そうな顔をした人は結局は愛してくれてなかったんだろう、と後からいらついてくることがあります。
    心を乱される人はなかなかいないのも事実ですが、自分が依存してただけ、ってこともあります。気を付けないとだめですね。

  2. 男と女にとっての涙の意味の違いって確かに考えてみると面白いことで、女の涙は武器だからというある種常套句的な感じがして、ステレオタイプ的に「ああ、またか」という雰囲気になってしまうのかも。
    だからこそそれとは反対に男は泣かないものというステレオタイプからはみ出した光景を見たときに、突然子供がライフル銃を突き出したような驚きを感じるように思う。
    議論が発展しそうな内容で面白かったです。

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