後悔

親父は建築会社の社長だった。
バブル期には相当稼いだらしく、世間一般的にはいわゆる「成功者」だったらしい。

会社も順調に成長していた頃、俺が生まれた。
しかし、そんな矢先、母親が癌になった。
すぐに入院して治療しなければ助からないと言われたらしい。
しばらくして幼稚園に入った俺は、鍵っ子になった。

ある日のこと。
親父は仕事が片付かず、帰りがかなり遅くなったことがあった。
いつも通り、鍵を開けて家に入ると、玄関で俺がわんわん泣いていた。
いわく、帰りがあまりに遅く、もう帰ってこなくなったと思って泣いていたらしい。
それを聞いた親父はしばらくして会社を畳んだ。
これ以上寂しい思いをさせないように、俺が大きくなるまではそばに居てやろうと思ったそうだ。

貯金を切り崩しての生活が始まった。
母親の病態は何年経っても一向に良くならず、高額な治療費でどんどん貯金は減っていった。
俺が高校生の頃、とうとう貯金は底を尽き、治療を続けられなくなった母親は実家に帰ることになった。

その後まもなく、親父も癌を患い、入院した。
母親と同じく、どれだけ治療しても一向に良くならなかった。
半ば追い出されるように退院した親父は、その頃には介護が必要になっていた。

しばらく俺は親父の介護をしながら生活していた。
しかし、あまりに辛い生活に耐え切れなくなった俺は、大学進学を理由に親父を捨てるように地方へと出てきた。
親父なら自分の夢を応援してくれるはず、なんていう都合のいい言葉を自分に言い聞かせて。

そんな親父が死んだと、病院から連絡が入った。
介護のデイサービスの人が、家のチャイムを押しても反応が無いことを不審に思ったらしく、警察に通報して発覚したそうだ。
親父は布団の中で、眠るように死んでいたという。

俺は遺品整理のため、実家に帰った。
親父の書斎を整理していると日記帳が見つかった。
そこには親父の苦悩が詰まっていた。
自分で作った会社を潰すのは辛かったこと。
子供のためだと言い聞かせたこと。
塾に行かせてやれなかったこと。
欲しいものを買ってやれなかったこと。
母親代わりになれなかったこと。
そんなことを親父は悔いていた。
たった一人で自分を育ててくれた親父が、こんなに苦悩を抱えていたこと。
親父は俺のために人生を捧げてくれたのに、俺は親父を捨てたのだ。

最後のページに通帳が挟まれていた。
300万円あった。
「気の遠くなるような人生だった。贅沢させてやれなくて悪かった。」
震える字で書かれた紙が挟まっていた。
紙にいくつも涙が落ちた。

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「後悔」への2件のフィードバック

  1. 淡々と語られる中で、主人公の罪悪感や苦悩などがはっきり見えることなく落ちた涙は、なんだか腑に落ちないものがありますね。ストーリー的には王道というかよくある話で、でもこう事実だけを述べられても感情移入がしにくくどの視点で読めばいいのかわかりにくい。一つのエピソードに絞って話を書くとまとまりが出て感情も浮かんでくると思うので、まずはストーリー云々よりも書き方を改めて書いてみると良いかも。

  2. 事象の連なりで感動を伝えるのは、どうしても乾いたイメージになってしまうので難しいですね。
    途中から母親のことが語られなくなっているように、主観的に内面で完結してしまっていて読者が入る余地がないのが問題なのかもしれません。

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