ポピュラー音楽:現シーン:チルウェーブ/春課題1/ジャムで窒息

はじめまして、来期より御世話になります、ペンネームを「ジャムで窒息」にした者です。「おもらしじょば子」とどちらにしようか、迷いました。

11日より課題が始まっていましたが、日々に忙殺されうっかり2週間分の投稿を放置してしまいました。失礼しました。そのかわり、第一回は2000字を目処に投稿させていただきます。宜しくお願いします。

さて、フリーテーマということですが、私はタイトルにあります通り現在のポピュラー音楽の流行ジャンルについて、その特徴や発達の経緯等を、隣接する/影響する他ジャンルを挙げつつ数回にわたってお話ししたく思います。多分に個人的な推測が含まれていますので、色々と御指摘を受けるやもしれませんが、取り敢えず私が大まかにインプットしてきた情報そしてそれらに対する感覚を基に述べてまいります。(そもそも関連文献がまだまだ少ない模様です。)

本題に移りましょう。まずお話ししたいジャンルは「チルウェーブ」です。別名「グローファイ」とも呼ばれ、境界が曖昧な「ウィッチハウス」「ダウンテンポ」とも同一視されがちなこのジャンルの特徴を概して言えば、”安っぽく単調なシンセ音を用い、落ち着いて涼しげ(チル:chill)に、マリファナの如く甘く気だるいクラブミュージック”と表せるでしょう。シンセサイザーに興味のない方のために補足しますと、シンセにも高級機種からインターネットで無料配布されている実験版まで様々ありまして、どれだけ複雑な音色をつくれるか、残響や”うねり”といった効果を加えられるか、出力される音質が良いかといった点で異なります。高級な機種をプロが操れば、まるで奏者の息遣いが伝わるほど本物のオーケストラに近い演奏が可能となりますが、チルウェーブの制作においては逆に「ポー」とか「ブー」とか、いかにも小さな機械で作ったような音を使います。いえ、重んじます。”落ち着いて涼しげ”と形容される所以は、強調された低音や滝の水流のような高音(”上モノ”)、柔らかなボーカル、くぐもったピアノ、チャイムの煌びやかな鳴り…等が特徴的な楽曲であるからです。またマリファナ的というのは、多用される極端に変調・加工されたボーカルや、”浮遊感のある”音響からきています。サイケデリックがお好きな方は、ビートルズやジミ・ヘンドリクスのディレイ・ギターが、LSDを服用した”トリップ”状態(幻覚・聴覚変化…)を表現していたことを思い起こすと伝わりやすいでしょう。なお、こうした特徴は後日紹介する「ドリーミーポップ」「シンセポップ」にも関連してきます。

流行は恐らく2010年前後からで、発表される場はインターネット上であることが多いです。文字だけでは伝わりにくいので、いくつか具体例を挙げてみましょう。

 

クラブ用の音楽にも関わらず、こうした気だるい音楽が隆盛を極めている(いた)のは非常に現代的だとも言えます。先進各国が不況に喘ぎ(特に世界の警察官であったアメリカの迷いぶり)、将来に大きく期待できなくなってしまった現在(まさにサブカルチャー概論で参照された『不可能性の時代』)、四半世紀前に流行ったディスコや初期エレクトロ・ハウスのようにバブリーな雰囲気は浮き立ってしまいます。また、ヒッピー・ムーブメントやパンク・ムーブメントといった音楽が大きな役割を果たした反動的文化(カウンター・カルチャー)は既に下火となり、成功したのか否かはともかく大抵は過去のものとして割り切られるようになってしまいました。そうした過去の明るい/熱意のこもった雰囲気に憧れたり、そうした潮流ないし文化を現代流に再解釈してみたりといった動向は、「ポストパンク」「ニューウェーブ」という方向、もしくはもっと最近だと「ヴェイパーウェーブ」「シンセポップ」等の別ジャンルに集約していきましたが、一方で実際の暮らしで感じる”醒めた/冷めた雰囲気”に適合したノリの音楽を求めた結果が「チルウェーブ」なのでしょう。また、小さな規模から生まれた現実逃避的な”聴くマリファナ”、として受け入れられている側面もあるように思われます。不気味と穏やかの中間、開放感と閉塞感の境界、どこか厭世的だったり、アンニュイだったりする、しかしジャンル名のとおり、それに乗って/乗せられて踊れるビートの”涼しげな波”が底流に流れる音楽が、「チルウェーブ」だと言えます。

このジャンルに関してもう一つ言いたいのは、「チルウェーブ」にはベッドルーム・ミュージックの性質がよく現れているということです。ベッドルーム・ミュージック、すなわち寝室でこそこそとパソコンや小さなシンセや MPC(複数のボタンに短い音を録音し、それらを組み立ててリズムを作れる装置です)を弄って作るような音楽だからこそ生まれる、シンプルな構成、眠気をさそうエコーのかかった音色も、このジャンルの隆盛に一役買いました。 そしてそうした作られ方と、主にインターネットを通じた発表のために、クラブ向けでありながらも「部屋で一人」という聴き方で十分楽しめる新たなタイプの音楽として発達した経緯があります。

アメリカ在住のXXYYXXというアーティストは、16歳の頃に寝室で物思いに耽りつつ、安価なシンセサイザーを用いて作った楽曲でデビューしたと言われています。彼は国内外の音楽フェスに出演し、2013年には来日しました。個人の心の内が彼の寝室で音楽になって現れ、少し感傷的になっている世界へとネットを通じて拡散し、彼の知らない大勢の人々の共感を得たのです。

いかがでしょう。初回投稿は現代の情報環境と不安感から生まれた新たな(といっても既に次のブームへ近づいているような空気がありますが)クラブミュージックの形態、「チルウェーブ」を御紹介しました。個人的に好きなジャンルでもありますので、御興味を持っていただければ幸いに思います。

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「ポピュラー音楽:現シーン:チルウェーブ/春課題1/ジャムで窒息」への2件のフィードバック

  1. 初めまして!温帯魚と言います
    文章を読んで、世界恐慌の時も同じような理由でスウィングジャズが流行ったとどこかで読んだことを思い出しました。ならば次はビバップのような技術による演奏が流行ったのでしょうか。いや全然わからないのであてずっぽうなのですが。
    個人的にはジャムに窒息はイカシテいると思います。これからよろしくお願いします。

    1. コメントありがとうございます。

      なるほど、私がまだ疎いジャズ畑においても、同様の現象があるのですか。ファッションらしいですね。
      クラブ系音楽界では、演奏技術の洗練・即興重視への流れは今のところ表立っていないようですが、絶えず新しいビートへの探求が行われていると思います。例えば、「ジューク/フットワーク」での(ヘミオラやポリリズムのような)拍子の遊びでしょうか。
      最近では音響企業やプログラマーが便利な機器/ソフトを発表しているので、即興カットアップ演奏も手軽に行えるようになりましたが、制限された機能で高度な技術を目指す
      ジャンルはなかなか発達しないようです。クラブ界のビバップ、登場してほしいものです。

      こちらこそ、今後宜しくお願い致します。

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