脳みそ洗濯機

 

夢のなかで夢をみました。現実ではありえないことが起きて、跳ね起きたら現実的な世界がひろがっていて、でもまたおかしなことが起きて。目を覚ました先には、現実がどうしようもなく横たわっていました。

その時思ったんです。もしかしてこの世界も夢、だったなら。

 

空ってきれいですよね。晴れた日のあの青くて眩しい「感じ」、夕焼けのあの淡い橙赤色の「感じ」、夜空の深くて蒼くて昏い「感じ」、その「感じ」は「クオリア」と呼ばれます。
光は電磁波の揺らぎ。その並び、スペクトルを人は色として捉えます。
その感覚器官である視細胞、そして視覚処理を行う前頭葉は人によって感受性が異なります。同じものは一つとしてありません。
つまり似通った「クオリア」を持っていたとしても、ひとそれぞれによって見えているものは多かれ少なかれ異なる。
あなたが見ているその空は、あなた以外には見えないいろをしているんです。

そう、同じ景色は絶対に見れない。

 

 

今回紹介するのは同人音楽のフィールドで活躍する女性ボーカリスト茶太による『睡眠都市』『あさやけぼーだーらいん』2枚のアルバムです。
茶太さんと言えば、『CLANNAD』の「だんご大家族」で知っているという方もいるのではないでしょうか(世代違いだったらごめんなさい)。

 

 

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『睡眠都市』はその茶太さんと『ひぐらし』一期EDの「why, or why not」を作曲した大嶋啓之氏がタッグを組んだアルバムです。

 

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『あさやけぼーだーらいん』は茶太さんをボーカルに据え、『ひぐらし』二期ED「対象a」のbermei.inazawa氏など指折りの同人音楽家が参加したCDです。
余談ですが、このメンバーは後に『而立 〜さよなら20代〜』というアルバムも制作しています。この『而立』も相当な名盤です。

 

 

軽く紹介も終わったところで、アルバムについてざっと書いていこうと思います。

まず『睡眠都市』。キャッチコピーは「眠る街と眠れない人びとの話」。
見事なことにこのアルバム、自殺の曲しかありません。収録曲数は7曲ですが、そのすべてにおいてテーマは「自殺」です。
橋の上からの飛び降り、ロープに首をかけた首吊り、引き金に指をかけてピストル自殺、そのほかいろいろ。自己否定や死の衝動に満ちています。
「先を行くひと」「後を追うひと」といったストーリー展開もあります。もちろん、自殺曲ばかりなだけに行き着く先には絶望しか残されていませんが。

 

表題曲「睡眠都市」はその集大成とも言うべき存在で、心地よい歌声と音色にいつまでも聴いていられそうです。
哀愁漂うメロディと茶太さんのウィスパーボイス、さらに感傷的な歌詞と非の打ち所がありません。

 

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また、透明なイメージを意識した歌詞カードも素敵です。
曲調も歌詞も暗いのに、それでいて透き通るような清涼感をもつこのアルバムにぴったりです。

 

いっぽう、秋冬の長い夜のなかひとり夜明けを待っているイメージを持つ『あさやけぼーだーらいん』。このアルバムで歌い上げられるのは、「世界とわたしのボーダーライン」。
完膚なきまでに救いのない『睡眠都市』ほどのうしろ暗さはなく、全体的にポップな曲が目立ちますが、時間帯はあくまでも夜明け前。
その内容はやはり内向的かつ自省的なものとやっています。

 

特筆したいのは、数々の楽曲のなかでも異色の存在である「メメント・モリ」。
作曲はbermei.inazawa、作詞はinterface(「why, or why not」「対象a」の作詞家)と内省的なサウンドを得意とするメンバーが揃い踏みです。
「死を想え」というタイトルにたがわず、恐ろしくも儚く、美しくも翳りをもつ、望みの失われた甘美な痛みに満ちた世界が描かれます。

 

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こちらの歌詞カードは水彩画をちりばめた12ページのブックレット。正直これだけでも楽しめます。

 

 

うん、もう抑えきれないのでぶちまけちゃいます。この2つのアルバム、最高です。
「死」というテーマが持つ恐ろしさや自省が放つ暗さは切り離せないけれど、その感情は純粋で透明で、繊細かつ傷つきやすい。
頭の中をぐちゃぐちゃにかき回して、まるで脳みそを洗濯機に放り込まれたような感覚。心の洗濯なんて生易しいもんじゃありません。

『睡眠都市』の登場人物ふたりがお互いの違いを半ば諦めながら受け入れているのに、最後は惹かれ合うように同じ軌跡を辿るというのも狂おしいほどに切ない。
世界という単位を構成するのは最低でもふたりいればじゅうぶんです。でも、そんな小さな世界とも断絶されている。
果たして、ふたりは死によっても同じ光景を望むことができません。その苦しみが胸を打ちます。

薬を飲まなくたって、手首を繰り返し傷つけなくても、なんにもひどいことなしに、空想のなかで擬似的に自殺を体験することができる。あるいは、死を願える。
創作の世界は偉大ですね。救いそのものにはならなくても、慰めとすることはできます。

自分をも含むすべてを否定することにより得られる平穏がこんなにも安らかで、居心地のいいものなのなら。そんなことも考えます。

 

 

でも何より心に響くのは、アルバム全体を包む、傷ついたひとの傍らにそっと寄り添うような優しさ。
おかげで夢でもみているかのような心地がします。それは例えるならば明け方、昇る日差しに目が覚める前のまどろみ。

光と闇のボーダーライン、その先にひとはなにを見るのか。
その答えは、あなたが望むままに。
ふたつのアルバムを聴き終えて、そんなことを感じました。ただひたすらに素晴らしかったです。

 

 

 

さて、今回で課題の提出数も10を数えました。
課題はいちおうひとり8回となっていますが、これはあくまでも目安で、これより多くても少なくてもかまいません。
使える道具を増やして、少しでも毎週書くことが当初の目的でしたし、あとはお気に召すまま、お任せします。無闇にたくさん書けばいいというわけでもありませんし。

 

3月ももう終わりですね。いい春休みを過ごせましたか?
4月からはスタジオに新メンバーも参加します。また、1年生も入学してくるということで楽しみにしています。改めてよろしくお願いします。

 

最後に。もし今回の記事で茶太さんのアルバムに興味が湧いた、という方がいましたらぜひお気軽に声をかけてください。それではまた。

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