偽りを演じる/嘘/ネズミ

今、この会場で私は偽りの自分を演じている。

偽りといっても虚言や経歴の詐称は許されない。そんなものは後々ばれてしまうなんてことぐらいわかっている。重要なのは事実をどれだけ自分に有利になるように盛ることができるかだ。根や葉がうっすらとでもあれば、相手側は私のことを咎めることはできない。もう一歩で嘘というギリギリのラインを攻めていくのがポイントである。そこで必要となってくる勘というのは、ここ何カ月かの連戦で取得した。

この場所では相手の懐にどう上手く潜り込むかということを巡って、熾烈な争いが繰り広げられている。勝負に勝ち残るためには、彼ら好みの人間を演じていく他ない。彼らの頭の中には理想とするイメージが存在する。いわば模範解答のようなものである。私たちに課せられた使命はその理想に近づくこと。

いやそんなことをしなくても私はありのままの自分を受け入れてもらう。そんなことを言いだすやつもいるかもしれない。あまい。断じてあまい。偽りのない自分をさらけ出して勝てるほどこの勝負は優しくなんかない。そんなのよっぽど心の綺麗な人でないとありのままの自分を出しつつ、その上選んでなんかもらえない。

では仮に勝負に勝ち残り選んでもらったとして、その後はどうするんだ。そのまま一生自分を偽って生きていくのか、なんて反論が出てくるかもしれない。だが私だってそんなつもりは毛頭ない。この先ずっと嘘の自分を演じ続けながら生きていくなんて、考えただけでも骨が折れる。大切なのはきっかけだ。今、表に出ているのは私の仮の姿であるが、その姿で判断され選ばれたとしても後でいくらでも修正は効く。この会場において最も重要視されるのは、彼ら側の目に止まること。選ばれないことには何も始まらない。

正直、自分を偽るのはもううんざりだ。彼ら側の理想とするもの、そこに自分を近づけていくためにはどう行動すれば良いのか、そんなことを計算するのはもう疲れた。だがこの勝負の厄介なところは誰かに選ばれなければ終わらないということ。勝ち組になるためには妥協することさえ許されない。だから私は今この瞬間も嘘で塗り固められた自分を演じていくしかないのだ。

会場内に勝負の終わりを告げるアナウンスが鳴り響く。

「今日の婚活パーティはこれにて終了です。最後に最も良いと思った人を選び、紙に書いて係の者へとお渡しください」

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「偽りを演じる/嘘/ネズミ」への2件のフィードバック

  1. 途中まで内容全然頭に入りませんでしたが最後であー面白いなーって思いました。この形の文章だと長すぎず短すぎずでちょうどいいです。
    良くも悪くもそれだけだなあって感じでした。僕は好きです。

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