『物体X』に「どうなの?」って聞けない/どうなの?/エーオー

いやなんか、あれは「父親」っていうか、得体のしれない「物体X」だなあと思うことが多々あるんですよね。

小さいとき、姉弟でしきりに尋ねたことがあったんですね。パパ、なんであめがふるの? それはね、神さまがシャワーを出しっぱなしにしちゃったからだよ。
他にも、Ver.雪~神さまがかき氷をこぼしちゃったから~とか色々バリエーションはありましたね。そのひとつひとつに私たち姉弟は笑い転げていたわけです。
さて、無情にも時は過ぎ子どもたちは大きくなりました。今上記のようなギャグをぶっ放せば、意志のある沈黙にハチの巣にされるほかありません。ああ、悲しきかな。しかし、これが成長というもの。

いや、へこたれないんですけどね、彼は。

夜、玄関のドアをあけると「ただいま!!」と大音声で叫びます。誰かの返事があるまで五、六回それは続き、しかも返事しても耳悪くて聞こえてないって言うね。おまけにそれでも満足せずに、二階に上がり寝ている一番下の弟を「パパ帰ってきたよ!」と大声で起こす始末。キレる弟、怒鳴り合う声。この騒音、発電とかに生かしたい。だいたいここまでがワンセットです。
 一番下の弟とおもちゃの取り合いで喧嘩する。風呂上がりに濡れた足で歩きまわらないでと言えば「ペンギンさんはそうしてるだろ!」と言う。体形を気にし始めた彼に「ビールじゃなくて水を飲みなさい」と言えば「量(ミリリットル数)は一緒だから変わんねえだろ」と言う。カロリーという概念はどこに!! 彼にまともな理論は通用しません。少年の心を持った男性って素敵♡とかいう宣伝文句、ぜってー信用しねえからな! そんなん陰謀だからな! 実際にいたらめちゃめちゃめんどくせえんだからな!!

 どうなんですかね? みんなこんなもんなんですかね?

 ドラマでよくある年頃の娘と父親の会話。最近、どうなんだ。うん、ぼちぼち。これって世間的にはリアルな会話なんですかね? 私もう分からない! もはや「子ども」ってレベルを超えて、意志の疎通ができるかどうかも怪しい物体Xだからさ。未知との遭遇。まともな会話が成り立つ光景が想像できない。

 さて、そんな父親の謎の行動があります。
 トイレから出てくるとき、或いは廊下ですれ違うとき、etc.etc.。彼は時々独り言をいうんですよ。「バーン!」つって
 びびります。不意打ちだし、例の如く声でかいし。これ本格的に危ない人じゃない? みたいな。長年この行動は意味不明でした。

 でも、大学生になって、あっ、て思い当たる節が出てきてしまったんですね。

 まあスタジオ内で何回も言ってるんで、もう飽きられてるかもしれないんですけど、わたしは道を歩いているときに「死ねばいいのに」「殺してくれ」と独り言を言ってしまうことがあるんですね。
 理由はちゃんとあるんですよ。大抵は考え事をしているうちに黒歴史を思い出してしまったり、その日の出来事について「あんなこと言わなきゃよかった」とか後悔して自分の存在の無能さに耐えられなくなったりして、ひとまず声を出すことで気を紛らわせたいがための行為なんですね。
 これ端からみたら危ない人ですよね。よく独り言言ってるおばあちゃん徘徊してるじゃないですか。近づかない方がいいよ、みたいな。それとおんなじですかね。もう自分にとってそれが普通になってしまって、おかしいかどうかも分かんない時があるんですね。自分の中では理由も理屈も通ってるから。

 あ、やばい。もしかして。
 父親の「ばーん」って、私の「死にたい」と同じなんじゃないか。

 その可能性に気づいたとき、どうしようもない哀しさとおそろしさに襲われるんですね。

 あんな理解不能な言動と行動を繰り返す父親にも感情があること。もしかしたら「ただいま」と言われないと安心できないくらい、家族の中での居場所がないと思っているのかもしれないこと。その傷に私の罵り言葉が加担しているかもしれないこと。そして私がそうであるのと同じように、彼も独り言で紛らわすしかない淋しさから救われないこと。だって今さら「最近どうなの?」⦅会社はつらいの?⦆なんて、聞けない。聞けないよ。ばかだね。恥ずかしいんだよ、この期に及んでさあ。そんなふうに得体のしれない物体Xだと思っていたものは、どうにもならないくらい私と同じ人間だって、突きつけられて逃れられないこと。

 初めの方の父親の突飛なエピソードは、笑い話としてるわけです。変人は最高。意味わかんないから面白い。自分と違いすぎて珍しい。距離があるから笑えるってわけ。普通の人にはできないよ。まるで漫画のキャラクターみたいな「物体X」。
 でも、その「物体X」が「物体X」になるまでの道が見えてしまったとき、理由を知った時、どうにもしこりがひっかかって、笑えなくなる。ああ、もしかして私たちが物体Xだと思っているものはさ、本当はあきれるくらい同じ人間なんだね。

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「『物体X』に「どうなの?」って聞けない/どうなの?/エーオー」への3件のフィードバック

  1. 敬語を使うことで愚痴かなんかを言っているような感じがしているし、最後の終わり方を見てもどこか外から見ていて他人事感がありますね。父親と自分の共通点を見出しても父親が人ではなく「物体X」扱いされているのと重なっていて面白いです。

  2. 終始語りかけられている感じがとても自然で、頷きながら読みたい文章でした。
    途中『~こと。』攻めのあたり、もう少しインターバルやスペースくれると読みやすく、染み込みやすいかと思います。いや、畳み掛けられたほうが入るってこともあるかもしれませんが。

  3. 前に別の小説で、きまりの悪い記憶を一面に並べてばーんと声を出して割る、みたいな表現があったことを思い出した。父親モデルだったのか。
    語りかける口調が独特で、小説以外でも筆者の顔が見える文章になっていて、さすがだなと思った。
    「物体X」については、それあってのエーオーさんなので、もう、いいと思う。

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