暗黙のルール/どうなの?/リョウコ

「いや、まあ別にいいんだけどさぁ」

普通に生きてる私に、普通に起こるいやな事は、ほとんどこの台詞一つで流れていく。
しかし、そういういやなこと達の中には、いくつか、どうしてもすんなり流れていかないものがある。

前年の10月から始動したミュージカル。片道1時間半はかかる東京の稽古場へ、週三回、彼女と一緒に通った。往復三時間×週三回、×4か月とちょっと。
当然の如く気の置けない間柄になり、私と彼女は「友人」から「親しい友人」の仲になった。
真面目な将来の話から、今抱えてる不安、ライトな下ネタからブラックな話まで、所謂サバサバ系こじらせ女子の付き合い。
どんな仲であれ、大抵の女子と女子の付き合いには暗黙の了解というものがあると思う。
私と彼女の間にあったルールは二つ。
「相手の前で女の顔をしない」こと、「あまりに本気過ぎる話はしない」こと。
男性の皆さんにはあまり共感してもらえないかもしれないが、“気の置けない”仲の女子同士であっても、なんとなくの線引きは存在する。
私と彼女はその見えない境界線を越えない範囲で今も付き合っている。

2月だった。
ミュージカルの千秋楽が終わり、キャストやスタッフと夜通し打ちあがった後、私と彼女は始発に乗って横浜に向かいながら、なんとなくその場のノリで銭湯に行くことになった。
一度家に帰り、仮眠をとってから支度をし、少し奮発をして大きくて新しい銭湯へ行った。
男湯と女湯が階ごとに分けられ、広々とした浴場、大きな湯船、そして露天風呂。
小屋入りから本番までの5日間、まともに湯船につかれなかったというのもあって、少し熱めの湯の中は天国のようだった。
のぼせるギリギリまで浴場で過ごし、着替え、更衣室にある販売機で冷たい牛乳を買う。
足の指先から、頭、いや髪の毛の先までほかほかに温まった身体に、冷たいフルーツ牛乳の流し込む。
嗚呼、至福の時!
「サイコーだね!」と振り返った私を、彼女は見ていなかった。
フルーツ牛乳を片手に鬼のような速さでフリック入力をする彼女。
そして、ごめんね、の顔で私を振り向いた。

「そこの駅に彼氏が着いたんだって。一緒に帰ろうって。いい?」

口に出してごめんねと言う彼女は完璧に女の顔をしていた。
彼女とその彼氏、そして私。よくわからない面子で一体なんの話をして横浜駅で降りたのか、私はあまり覚えていない。
ただ、空気になって2人の世界を極力邪魔しないようにとはしていなかったので、おそらく何かしらを喋っていたんだろうと思う。気まずくはなかった。

いや、だけど。そうだといっても。
あの暗黙の了解を守っていたのは私だけだったのか。
彼女にはその境界線が見えていなかったのか。

「いや、まあ別にいいんだけどさぁ」

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「暗黙のルール/どうなの?/リョウコ」への1件のフィードバック

  1. そのルールを破ったら、疎遠になるかもっと仲良くなるかの二択だろうけど、そういうルールって高校生まではあんまり無いよなあと思いました。

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