パーソナルスペース/距離/峠野颯太

「友達と仲良くなれへん」
「あの子は私よりAちゃんが好きなんや」
そうやって、何度も何度も母親に昔から泣きついた。その度、言われる言葉は同じだった。

「あんた、なんかしらんけど壁あるでやわ」

そう、私もなんかしらんけど、どうやら他人との線引きについてはデリケートらしい。ドイツ人もびっくりするほどの厚い壁が、私の心にはある。でもそれは、私が建設したくてしてるんじゃない。私の意識の許可もとることなく、勝手に私の本能が工事をしたのだ。全く腹立たしいことである。

越えるにも壊すにも難しい壁を持った私は、パーソナルスペースも勿論東京ドーム並なわけであって。ボディタッチなんて以ての外。女だろうと男だろうと、好きだろうと嫌いだろうと、どうしても距離を取らないと落ち着かない。
とりあえず、そういう性格なのだ。

そんな私にこの前悲劇が起きた。
話は1ヶ月前ほどに遡る。バイト帰り、電車に疲れた体を任せていたときのこと。私が乗った次の駅で30代くらいのサラリーマンが座る私の前に立った。爽やかな風貌だな、とそれくらいの印象しかなくて、別にこれといって何も思わなかった。強いて言えば、車内はまだ空いているのにどうしてこんなところに来たんだろう、と少し気になるくらい。私はスマホを触っていた。そうしているうちにアナウンスが流れ、電車は発車した。
発車した直後、前の男性は一歩私に近づいてきたのだ。どうしたどうした。酔っているのか、はたまた寝ているのか?気になった私は視線を上に移し男性の顔を何となくのぞきこんでみると、何とびっくり、バッチリ目が合った。起きてんじゃねえか!むしろ超元気そうじゃねえか!

目を合わせるのも大嫌いな私は、すぐにスマホに目を移し、ひたすら願った。
「早く着きますように」
だが、だからと言って電車は加速などしてくれない。
そんなことを思っているうちに男性の脚がとうとう私の膝とドッキングした。壁ドンならぬ膝ドン。しかも電車の揺れと見事にハーモニーを奏で、リズミカルにドンドンしてくる。地味に痛い。何より気持ち悪い。

ダメだもう限界だ、と思い、席を立とうと決意した。だが、その思いも儚く散りゆくこととなる。
人がものすごく乗ってきて、私は安易に移動できなくなったのである。助けて!みんな!今なら超自己中な老人に席を譲れと言われても怒らない。むしろ感謝し崇め奉るから!そんなことを心で思っても通じるはずもなく…。

結局私の目的駅まで地獄は続いた。電車から降りても、膝にスーツの感触と、リズミカルビートが微妙に残っていて本当に気分が悪かった。多分あの人に悪気はないし、ものすっごくパーソナルスペースが狭い人なんだと思う。隣の人との距離も近かったから。
とりあえず、こういう事態をなくすためにも、パーソナルスペースは何らかの形で可視化できたらいいな、何て思ったりする。それはそれで混乱を巻き起こしてしまいそうだが。

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「パーソナルスペース/距離/峠野颯太」への1件のフィードバック

  1. 事件を引き寄せてしまう体質はネタ的にはおいしいですが、自分を切り売りしてしまう文体にはどこか手放しで笑い飛ばせないものがあります。
    パーソナルスペースの可視化はとても面白そうなテーマです。実体験にはインパクトがありますが、それだけで話が進むと飽きられてしまいがちです。導入部のポリシーの説明を最小限にして、体験談をきっかけ程度にとどめつつ、徐々に要素を小出しにしていった方が効果的かもしれません。

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