バラバラ/身体/フチ子

「京都府京都市の女子中学生が、何者かによって刃物で切りつけられ、殺害された事件で、バラバラになった遺体の一部のうち、捜索中だった一部が今日、見つかり…」

音量を小さくしてテレビをつけると、期待どおり、ここ最近ワイドショーを独占してる「バラバラ事件」について扱っていた。

バラバラ、か。どう切断されるのかな、首、右腕、左腕、右脚、左脚、熱狂的なストーカーからの殺人鬼、ということは左薬指とかも切り取って一生一緒にいようみたいな儀式でもするのかな。不謹慎だけど、このニュースを聞いてると、だらだらと空想が頭の中を流れてきて心地がよい。わたしの体までもが、ゆっくりと解体されていく。痛くはなくて、拡がって、このベットから右腕だけが離れていってテレビをさらっと消してくるような感覚、自然なもので、凝り固まった関節が外される開放感。白いベットから隣にいる男の存在を消し去り、ぷかぷかと浮かびながらわたしの一部の距離が離れていく。

午前4時46分。

おそらく、隆彦はとってもいい夫であり、失ってはいけない存在なのは、わかってる。わたしを大切にしようとか、そういう意思は伝わるし、少しずれてる時も多いけど、決してわたしを蔑ろにしない。どんなに仕事が激務で疲れていても、毎週金曜日欠かさずわたしを求めてくるのは、子供が欲しい私のためであり、義母のためであり、彼の優しさを保つためなのだろう。ただただ身体を求めあうような乱暴なものとは違うセックスは、堅苦しいし、頭の中で思考するスペースがある分、縮こまってしまう。彼も理性を保ちながら、何かを考えて、わたしにぶつけてくるのだと気づいてしまうと、恐ろしい。理性を外してしまえるような、彼から頭を切り離してあげられるような、かつての自分の魅力や若さゆえの勢いが懐かしく羨ましく、少しだけ、恨めしい。しかし同時に、かつてのわたしよりも、今のわたしは「大切に」「愛されている」。彼を、「独占」できるし、彼はそれを「許して」くれる、優越感も共存するからややこしい。

「いつも家ばかりだと少しつまらないよね、初めて行ったあのホテルに、行ってみようか」

だからこそ、嫌な予感がした。昔と今を比較することはしたくない。昔は昔で求められていて、今は今で大切にされているんだ、それでいい。昔はホテルで、今はこのマンションの寝室、比べちゃいけないし、比べてしまうような状況を作らないで欲しいのに。

「絵美、起きたの?」

わたしの右手はもう見えないくらい暗い闇に消えていて、左手、右脚はほんの少し離れていったところで、隆彦を起こしてしまった。身体たちは一斉に集まってきて、再度合体し、縮こまる。

「ごめん、うるさかった?」

「うーん、いや、このベット固くてさ、起きちゃうよね」

少しかすれた声で呟く、その一言に救われる。やっぱりこのベットは固くて広くて、白すぎる。

「肩とか、腰、揉んであげようか。固かったよ」

「おー、それは助かる」

広いベッドに仰向けになった彼の身体を、優しく、大切に、ほぐしてあげようと思った。

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「バラバラ/身体/フチ子」への3件のフィードバック

  1. とってもコメントしづらいですね(良い意味なのか悪い意味なのかもわからないです)。
    たまに起きるバラバラ殺人の話を聞くたびに私は、何を使えば人体は切り刻めるんだろうって思います。骨をノコギリでギコギコと削ってばらすのか、それとも関節あたりの肉を切り落として健を切ることで関節外してパーツ分けするのか、後者だと頭部と胴体は繋がったままだなぁ、チェーンソーがあれば割と楽にバラバラになるのかなぁとか。
    たぶんこの文章におけるバラバラ殺人は、身体の浮遊感を想起させるためのエッセンスなんで的外れなコメントになってしまいましたね。
    妄想による身体の浮遊感・離散感っていうのもあると思いますが、この文章からは、セックスにおける身体の分裂みたいなことも読み取れるなと思いました。

  2. 精神の離脱を身体の分解に還元するところが少し混乱させたが最終的に興味深かった(私の理解が合っているのなら)。精神の離脱は一般的に身体から分離することを指すのでその両者の関係がまた難しいと感じました。

    小説の文体について感想を言いますと最初に自分の話じゃないかなと思ったのに中盤になるとやっと気づくという裏切られた感があり、合わせて主人公の手足が空中に浮いていくという非現実な描写が個人的に好きでした。

  3. 我々の祖先は狩猟であったり争いをしていたわけですから、他者の肉体をバラバラにしたいというのは理性とは別の本能かなと思うこともあります。そして他者への愛もまた同じなのかと。
    グロテスクな描写とはやはり血や粘液の描写なのでしょうか。文章はむしろ嫌悪感のないものだと思いました。

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