魂千里/身体/なべしま

身体と魂の二つがあるといっても、それの真偽は置いておいて、理解はできるだろう。心というものが人間の魂で、肉体という容器に入っている、そんなイメージ。魂魄という言葉がある。魂と魄にはいくつかあって、三魂七魄という。三つの魂と七つの魄、ということだ。人間が死ぬと三魂が抜け出て七魄が体に残る。たしか中国の言葉だったか。
一方日本には古事記という古い話があるが、この中で死者は洞窟の中を通り、あの世、黄泉の国へ行く。イザナギという神様も、死んだ妻を迎えに歩いて黄泉へ行く。この洞窟は、竪穴式古墳のイメージから来ているのではないか、そういう話を聞いたこともある。
人間が死ぬと屈葬という埋葬をされた時期もあった。屈葬の理由はいくつかあるらしいが、一つに死者が悪さをしないため、という答えもあるそうだ。

魂と身体、これは大変分かりやすい。魂魄という考え方を知った時は感動した。魂は天に還り魄は地に還る。なんと完成された人間のあり方。それでもかつては魂と身体、この二つが不可分であった時代があったのではないかと思う。悲しいことがあれば胸が痛む。頭が痛いと心も沈む。いつから魂というものが人間の体に入っていると思われているのだろう。研究したわけでもなし、調べたわけでもなし、仮説ですらなく、単なる思い付きなのだけれども。

自分の意見の根拠薄弱、それに消沈してしまったが、
「こんな体を持て余すよりは、よほど楽しいもんだろうよ」
と隣の茂狩さんが励ましてくれた。魂魄未分化説は少しいい思い付きだと思ったために、茂狩さんの鼓舞は嬉しかった。とはいえ茂狩さんも気にしすぎなのだ、こんな体、なんて。知り合い数分の仲ではあるが、深い恥辱が伝わってくる。
「これは茂狩さんがいたから考え付いたのですよ。サア行きましょうや」
僕は茂狩さんの、乳白色のされこうべを抱え上げ、真っ暗な湿った土を踏んだ。ずぶずぶと音を立て、僕の腐り果てた足の裏が地面にめり込み、べったりと汚らしい足跡を付けた。たった一つのどくろ、そっちの方がまだ良いのではと茂狩さんを羨ましく思うが決して口には出さない。隣の芝生は青く見える、たしかに僕には足があるのだから。
「茂狩さん、僕らは何でこう、ぽわっと、魂が抜けていかなかったんでしょうねえ。死んでから歩くとは思わなかった」
「俺だって思わなんだ。情けない。魂は一日千里を駆けるというに」
「まあ、魂には口もありませんでしょう。ホラ、まんまるで」
「能天気なもんだ。能天気ついでに一つ唄ってくれよ」
それじゃあと子どもの戯れみたいなのをぽつぽつ唄った。茂狩さんのお気に召したようで、気づけばゆらゆらと揺れ、気持ちよさそうにしていた。時には一緒に唄ってくれた。
僕は少しばかり死臭がしたが、茂狩さんにはもう鼻がない。僕は茂狩さんに出会えて本当に嬉しいのだ。きっとどこかへ行きつこうと思う。

0 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 5 (0 投票, 平均点: 0.00,  総合点:0  |  
投票する為にはユーザ登録する必要があります。
Loading...

「魂千里/身体/なべしま」への3件のフィードバック

  1. 最初、語り口調で始まったのでエッセイというか批評文かな、と思いきや小説でしたね!一本とられました!というのは置いといて。
    死んでから体に意識だけが残ってしまったら、と考えると非常に残酷に思えてしまいます。腐敗する体と付き合わねばならないのですから。でも彼らは非常に明るくて、落ち込んでる様子もなくて。すごく面白かったです。彼らは死んでいる、といっていいものなのか…?

  2. 魂は生きているうちは考えることはできても、実感することはないように思う。だからこそ魂はどこに宿っているとかいう議論は、古今東西どこでも行われていることだし、地域、文化、宗教、あらゆるものの影響を受けて、魂と身体は捉えられてきた。なぜなら死んだ後に魂を実感できるかどうかもわからないからである。

  3. 小説にもエッセイにも評論にも寄り過ぎないものを書きたいと、日々思っているのだが、こんな書き方もあるのかと、単純に感心した。
    私は、死んだらもうすべておしまい、天国も地獄もないし、生まれ変わったら…なんてこともなくて、文字通り永遠の眠りなのだと思っているが、死後の世界を描くとしたら、透けていても欠けていても、やはり何らかの形で自分の身体が存在している状態を考えてしまう。魂があっても入れ物がなければ何も起こせないし、けっきょく2つは切り離せないものなのだろうと思う。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。