与えられしもの/たなべゆうき/ネズミ

 

「神様ってさ、ホントに平等に人間をつくるよな」

塾からの帰り道、金子が唐突に言った。

「どうしたんだよ、急に」

「いや、菊池先生見てたらなんかそう思った。あの人めちゃくちゃ頭いいけど顔は残念じゃん?そこでバランスとれてるんだなーって」

菊池先生とは、僕らが通っている塾の英語兼数学の先生だ。彼は現役で東京外国語大学に入学したが中退し、理転した後に東京大学に合格した。ものすごい学歴の持ち主だが、その容姿の醜さから塾内では顔面兵器と呼ばれている。

「あー確かに」

軽く笑いながらそう言ったが、内心では全くそんなこと思っていない。神様が人間を平等につくっている?ふざけるな。だったら僕はどこでバランスがとれているというのだ。勉強が苦手で11月になった今でも第一志望の大学は模試の判定がE。背が低くて、顔も並くらいかそれ以下。運動も大してできるわけではなく、コミュ力もない。神様、僕に才能を与えるの忘れてますよ。

金子と別れた後、駅ですれちがっていく人たちをいつもよりも注意深く観察してみた。あの人もこの人も平等だなんて僕には思えないけどなあ。そんなことを思いながら、ホームへの階段を下っていると遠くに見慣れた顔があった。田辺だ。僕と同じバスケットボール部でまあまあ仲がいい。僕が神様に嫌われているのなら、あいつは完全に贔屓されている。背が高くてイケメン。部活ではキャプテンを任されており、もちろん女子からも人気だ。成績も優秀ですでに慶応大学への推薦入学が決まっている。服のセンスもいい、というよりも何を着ても似合う。田辺悠希。ほら、名前もなんだかかっこいい。僕がほしいものを全て持っている。あいつを見ていると何で僕には何もないんだということをいっそう強く思わされてしまう。

 

田辺がこっちに気づいた。にこっと笑って近づいてくる。

「佐々木じゃん。塾の帰り?」

「そうそう」

田辺とは最寄りの駅が一緒だ。電車に乗って話していると、さっき金子と話していたことを田辺にも言いたくなった。神様は平等に人間をつくっているという話をすると、彼は言った。

「ははっ、確かにな」

は?いやいや、お前は完全に恩恵を受けてる側の人間だろ。僕の気も知らないで。少しイラッとした。

「いやお前は何でも持ってるじゃん。悩みなんてないだろ」

「いや、そんなことないよ」

そうだ。こいつこれだけハイスペックにも関わらず、謙虚さも持ち合わせているんだった。まさに非の打ち所がない。それがまた僕に劣等感を与えた。

「そんなことあるだろ」

まずい。少し口調が強かった。恐る恐る田辺の方を見た。

「そんなことないって」

そういう彼は少し寂しげだった。ああ、こんなに完璧に見える田辺にも悩みがあるのか。ごめん、僕はお前のことを決めつけすぎていたみたいだ。

「今二人の女の子から言い寄られてて、どうすれば傷つけずに断れるかわかんないんだ」

 

 

前言撤回。

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「与えられしもの/たなべゆうき/ネズミ」への2件のフィードバック

  1. マンガなんかを読んでいても、魂が高貴な人間はいますよね。生まれとか身分ではなく、心の底が眩しいような人。田辺くんはそんな感じよりももう少し弱い印象がありますから佐々木は少し腹が立つのでしょうか。
    田辺情報が淡白な説明だけなので裏がありそうに見えるので、オチはよかったと思います。

  2. この流れだともう一つの道はサイコパスだなとは思うものの、それもまた一つのテンプレに回収されてしまうし、テンプレを超える力ってどこにあるんだろうと、最近はぐるぐる考え続けている。でもそのためには多分たくさんのテンプレを読み込むことも大事であって、ぐるぐる、という無限ループ。書くしかねえのかな。
    むかし美人で典型的に性格がキツい子がいたのだけど、でもやっぱり悪い子じゃなくて彼女も彼女なりに困ることがたくさんあったんだろうなと、今となっては思う。たぶん、この田辺くんと同じような悩みを抱えて本気で困ってる人もいるんだろうなと、ならば次はあえてそっち側に立ってイケメンの悩みを妄想しぬくものも手だろうか。
    個人的には、男子はイケメンに対峙するとどう思うのかが気になる。

    私はかわいい人に出会うと持てる語彙すべてを総動員してその美しさを表現したくなってしまうし、「女子のかわいいはかわいいと言う自分がかわいいと思ってる」的なやつは、かわいい発言の側面のほんの一部だしもう飽きた。自分がその女子と同じステージに立てると思える矜恃がないとその考え方はできないし、むしろその矜恃を持ち続けるより自分の負けを認めステージを降りたほうが美しいものを美しいと言える清々しさを手に入れられるから、みんな人をかわいいと言うのだということを主張したい。そもそも女vs女というテンプレを使いまわそうとする層は、自分たちが「勝ち負け」という価値観に普段から囚われすぎてそこでしか物事を図れず、自分のコンプレックスを勝手に重ねているだけだからこういうことに気づかないのであり…だめだ、別案件。

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