命名論/たなべゆうき/Gioru

私は小説であれ何であれ、キャラクターに名前を持たせるときは何かしらの意図を付ける。

物語の直接の伏線、なんてことはほぼないけれど、そのキャラにどうあってほしいか。そんなことを願って付けている。

 

わが子に名前を付けるようなものではないだろうか。

 

もちろん、そのように名付けたからと言って、そう名付けられたその子が、その通りに成長するなんてことはあり得ない。物語の中で他の誰かに出会うことで、何かを体験することでその子は、自分を作っていくのだろう。

 

さて、今回は既に名前ができている。田辺悠希である。

ならば私がするのは、この子がどうあってほしいと願われて誕生した子なのか。それを勝手に想像することである。

 

まず、苗字については省略しよう。芸名とかではなさそうなので、これは単なる記号に過ぎない(そう言ってしまえば、名前も記号でしかないのもまた事実だが)。

 

「悠」。時間的に、空間的にどこまでも続いていくさま。あるいは気分がゆったりしているさま。

「希」。めったにないこと。ねがうこと。(濃度が)薄いこと。ギリシャの当て字。

 

辞書的には上のようである。

単純に組み合わせれば将来への希望を持った、落ち着きのある子になってほしい。

 

それでは“私”がつまらない!

 

ここから色々と捏造していくことにする。

悠とは、そのどこまでも続いていく様から、どこか悲しげで儚げな雰囲気が漂っているように感じる。だからこそ、ここにいるようでいないような雰囲気をもつこのキャラは一度、心に火が付いたら一気に燃え上がりそうである。

守ってあげなくちゃ、という印象は、その時にこの子が、まだ進むべき道を見つけられていないからである。

 

どうすればいいのか分からなくて、とりあえず遠くを見つめる。そこには色々な輝くものが存在する。それが、果たしてこの子にとっての希望なのかは分からない。どこかで、そうあってほしいと請い願う様を表しているのかもしれない。でも、その輝く何かが私を変えてくれそうな気がして、だから一歩目を踏み出せる。

そんな願いを込めて「悠希」。

 

もう少し妄想してみる。

どこか浮世離れした、ここにいてここにいないような雰囲気を持つその子。いつも窓際に座って、何をするのでもなくボンヤリと外を眺めているのだ。

よく見ると何度か席を立とうとしているのがわかる。その子の膝の上には一冊の本。表紙に何が書いてあるのかは分からない。厚さはそれほどでもなく、黒い艶々とした背表紙に金の美しい装飾が施された本である。

不思議な雰囲気をもつその子に声をかけるのだ。いったい何をしているの? って。

 

そこから「田辺悠希」との物語は始まっていく。

初めは変化を恐れるように見えたその子も、あちらこちらへと引っ張りまわしていくうちに、色んなものに自分から飛び込んでいくようになる。

そしてその子は一つの楽器に出会う。

 

ピアノである。

 

鍵盤を叩くことによって音はなる。でもその叩き方を変えるだけで、音はどのようにでも変わるのだ。時にやさしく、または激しく。自分の感情をこれでもかと鍵盤に乗せることができる。

今まで見てきた風景を思い浮かべながら悠希は、また鍵盤を叩くのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という、素晴らしい世界があったら、と“私”は思うのだ。

ただどこにもいなさそう。少なくとも有名人には存在しない。男とでも女とでも、どっちにもとれる。そんな理由でつけられた私の名前。

 

私は、そんな自分の名前に、存在に意味があったらな、と希う。

 


この作品に登場する人物は実際の団体・個人等といっさい関係ありません。

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「命名論/たなべゆうき/Gioru」への1件のフィードバック

  1. 感慨深いものを感じました。考えてみれば、物語のキャラクターの名前は必然的に意図されたものだけど、わたしたち実在の人物の名前も同様に願われて決められたものなんですね。ネーミングというネタはあまりなかったので新鮮でした。
    この流れで行くと、安易にキラキラネームを付けられた子どもは相対的に見ると不幸ということになりますね。
    終盤の改行はPCから見ても長すぎるように感じるので、もう3行ほど短くしてもいいと思います。

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