流れに棹/田辺悠希/猫背脱却物語

※だから私はコメントが欲しい。大したことなくても。

はっ!
として我に帰ると課題は進んでいた。さっきまで考えていたことが文字として文として、思ってた以上にテキストエディットが埋まっていた。ん?「思ってた」っていつの話だ?ついさっきでしょ?じゃあついさっきから今の今までの時間ってどんな風にしてたっけ?姿勢だなんだは変わっていないことは、右太ももを圧迫した姿勢の産物としての痺れでよくわかるんだけど。ま、なんかやな時間じゃなかったかな。

はっ!
として我に帰るとレジに立っていた。さっきのお客様がどんな人だったか何を買ったか、しっかりとは覚えていない。というか、最初に来たお客もさっき来たお客も同じレベルで誰だったかわからない。記憶喪失というわけではなく、むしろ最初の人の記憶までついさっきのことのように思えるのだ。気づいたら閉店まであと7分とか。あれ、つい前に入ったつもりだったんだけどな。ま、なんかやな時間じゃなかったかな。

 流れというものがある。「ゾーン」に入っているとも言えるその感覚。集中しすぎてて時間の流れがゆっくりになっているというか、そもそも時間が流れているのかというところから定かではない。ただ自分がそこにいるときには全てを巧みにこなせている(ような)気がして、悦に入ってる感じで、悪い気はしない。でもそれを振りかえったときにそれが本当に自分だったという意識は怪しい。

 とすると、その流れが止まった時こそ初めて流れの存在を意識でき、それまでの流れを客観的に判断することができるのかもしれない。流れに棹がさされた時とでもいうのか。「はっ!」の瞬間の目覚めは、それまで流れに任せ突っ走っていた自分に対し、それを振り返っている状態である。時間の流れにおいて少し新しく、けれど私という根幹は変わっていないで、言うなれば更新されている状態。その目覚めは虫の脱皮のような感じがする。いや、したことはないけれど。ゾーンに入っていた間のことを振り返ることは重要である。いやむしろ、決算として振りかえる時点があるからこそ「ゾーンに入っていること」が分析できて意味を見いだせる。夢は覚めてこそ夢として価値があるようなものか。

 大きいゾーンというのもあると思う。それが大きすぎるがために余計に気づかないけれど、より長期的な期間で自分がある流れに沿って考えたり振舞っている。恋愛、とくに片思いとかなんか最たるものだろう。そして恋に冷める瞬間が「はっ!」なのかも。あとから振り返ったら「なんであんな人のこと好きだったっんだろう」と思うのは、自分でも気づかない大きさの流れに、自然と乗っかっていたから。書くことで言えば、文章を作ってブログにあげて、「今回のはいいのが書けたぞー」と思いながら、書いた文章のことをルンルンと意識しながらスタジオの日を待つ間もそうだ。そして、そこにコメントという棹があるからこそ、大きく「はっ!」とできるのだ。※繰り返し

 バイト先の飲み会に、新参者の私が初めて参入した時のこと。はす向かいに座った田辺さんが、大学生である自分が何をしているかに興味を示してくれた。文章を書いてるとブログを見せたら全部読んでくれて、感想をくれた。恋愛における「はっ!」はスタジオの日と違って決まっていないから予想だにしないところで棹がさされたりする。田辺さんからコメントをもらうという私の文章についても恋のような突然の棹さしだった。

 ただ、田辺さんの感想は全て私の文章を自分の恋人との話にフィードバックしまくっていた。恋のような棹さしが、恋人の話という棹。ややこしい。というか恋人のこと話したいだけかこの人。事実それに端を発して、田辺さんは恋人の話しかしなくなった。それら物語は、多岐にわたりすぎてどっかから作ってんじゃないのかってくらいに出てくる。酔うといつもそうなんだと。

 「田辺さんの恋人さん話って、全部本当なんですか」
棹さされた身として、惚気話に対する少し意地悪も含めて、少し棹をさし返したやった。
 「いや、やっぱお付き合い長いとそんだけ話が出てくるもんですかねハハハ…」そういうと、返事はない。ただ笑っていただけだった。なんとなく、多分一部妄想なんだと悟った。いや寧ろ大部分妄想なのか?というかもう恋人自体が幻想?もしかしたら、想像以上に大きな棹、さしてしまった?

 と思ってたら年度替えの時期に、結婚を機にしてバイト先をやめてしまった。恋人、妄想じゃなかった。ちくしょう。

「子供が生まれました!名前は「悠希」です!」
田辺さんとつながっているSNSに、先日そんな記事があがった。やっぱり恋人、妄想じゃなかった。くそ、世の中の不条理め、、、いやはやおめでたい。ただ、一緒に写っていた赤ん坊は一つの生命の幼生としての可愛らしさで満載であり、名前も相まって「ゆうきくん」なのか「ゆうきちゃん」なのかは皆目検討がつかなかってけど、そんなことどうでもよくなるくらい可愛かったからどうでもよい。

 田辺さんはこれからの人生をかけて、愛する我が子田辺悠希の妄想を沢山語っていくのだろうか。こんな可愛い存在なんだから、これまで以上に様々に彼/彼女?を思い語るに違いない。またいつか、田辺悠希の四方山話異聞奇譚を昔のように聞いてみたいと、逸る気持ちは純粋に、いいね!のもとへカーソルを寄せた。

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