普通の需要/たなべゆうき/ヒロ

 私は田辺悠希。名前はまだない。
 生まれは東京で、中流階級の家庭の次男として生まれた。小中学校では近所のサッカースクールに通い、サッカー部にも所属していた。また中学校一年生のときにサッカー部のマネージャーに淡い恋心を抱いて告白するが既に部長と付き合っているという事実をカミングアウトされ、初恋が玉砕に終わる。

 高校では第一志望の公立の高校に合格。帰宅部となり、近所のゲームセンターで度々時間を潰すようになる。二年生のときに父親の浮気によって両親が離婚。母親に引き取られる。母親の教育が厳しくなり、近くに一人暮らしをしていた兄の家にいる時間が多くなる。三年生のときに初めての彼女ができる。向こうからの告白で、始めの一か月ほどは母親の影響もあり、彼女に心を開くことができなかった。その後童貞を卒業。その少し後に高校も卒業する。

 大学は第一志望の国立大学には落ち、第二志望であった公立の大学に合格。経営学部に入り、フットサルサークルに所属していた。高校のときの彼女とは自然消滅となり、一年生のときに新しい彼女ができる。三年生で同棲を始める。その後辛く厳しい就職活動を経て中小企業に内定をもらう。

 就職してからはあくせくと会社のために働き、サービス残業に疑問を持たなくなる。社会人二年目に大学時代の彼女と結婚する。その二年後に娘が生まれる。それからは家族サービスも会社に尽くすことも一生懸命にこなしている。

 趣味はサッカー観戦とゴルフ。仕事終わりに飲む酒は最硬だと思っているが、ビール腹にならないか心配している。世の中で一番恐ろしいものは嫁といつか来る娘の反抗期。

「はい、田辺悠希を一体。はい。……はい。ご注文ありがとうございます!
 おい、田辺悠希もう一体注文が入ったぞ」
「了解っす。……いやあ、まさかこんなもんがこんなに売れるとはねえ。全くの予想外っすよね。俺これについて初めて聞いたとき正直上層部の正気を疑ったっすもん」
「俺も同感だったんだがな。でもお前もあの設定考えてたときノリノリだったろうが。俺もだけどさ。まあ世の中生きてるとこんな相手が必要になってくるんじゃないか? 誰でも自分よりも低い立場だったり、苦労してそうだったりするどこにでもいそうな普通のやつとかが友人にいればどこか気分が楽になるだろ。そういうことだよ」
「そういうことなんすかねー。他にも誰にも言えない愚痴をぶちまける相手や父親代わりの存在としても役に立ってるらしいっすからねぇ」
「そこらへんは俺たちには関係のないことだよ。俺たちはこの人間のように話して動くくたびれた中年のおっさんの人形を売ることだけ考えてたらいいのさ。
 ん? おい、また電話だぞ」
「了解っす。もしもし。はい、こちら田辺オートマタ工房です。はい、田辺悠希を一体、ありがとうございます」

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「普通の需要/たなべゆうき/ヒロ」への1件のフィードバック

  1. 文の中のAI田辺悠希は第一人称で登場しているが、そうだとどうしても個々の田辺悠希の人格が気になります。購入者視点から田辺悠希の人生を語るのも面白いじゃありませんか

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