高校生/たなべゆうき/きりん

揃いの制服がぞろぞろと坂を登って、殺風景なコンクリート校舎へと吸い込まれていく。白いシャツ、黒いズボン。セーターにグレーのスカート。流れにのってたどり着いた錆びた昇降口がそれこそ口のように彼らを飲み込む。自分もそんな流れにのって飲み込まれていく。色の下駄箱の間で、辛うじて生きている色がうごめいていた。その一員として、くたびれたローファーをやはりくたびれきっている上履きに置き換え、足にひっかけて教室へと足を向ける。
「おう!はよ!昨日のキューさまみた?」「見てねー」進藤はよくつるむクラスメイトだが、とにかくよく喋る。教室に入った瞬間からめざとくこちらに話しかけてきた。「見てねーのかよ!いもと」「見てねーよ。てかいもとにそんな興味ない」教室の端のそいつと遠距離な会話をしつつ、机を目指す。どうやら時間ぎりぎりだったようで、机にたどり着いてすぐ先生が来た。
出欠席の確認ではいつもの面々の欠けっぷりが笑える。「野本ー。いないなー。葉山ー。こいつもいない、と」多分、そのうち駆け込んでくるだろう。連絡事項の確認に移ったところで、田辺がいることに気がついた。田辺も割と親しくしているので、今までその存在に気がつかなかったというのは自分でも少し驚く。今朝まだ話していなかっただろうか。1限のあとで漫画談義でも持ちかけてみよう。

 

とか思っていたら、1限体育というふざけた時間割の喧噪で田辺を見失った。仕方ない、体育館で会おう田辺よ。
整列して集合していると、不意打ちで後ろから軽くどつかれた。

「よお」田辺だ。「おう、おはよ」しっかりジャージ姿で、いつも通りのツンツンした髪。「お前それ髪、刺さりそうなんだけど」「刺さりそうって何だよ!むしろ刺してやろうか」いたく憤慨したようにおどけて、頭突きしてきた。別にそんなに鋭くないはずが、何となく本当に痛い気がしてくるのが不思議である。教師に一喝されおとなしく座るまで、俺や巻き込まれた数人はひたすら逃げ回らなくてはいけなかった。

 

その後の授業のグループ割りでは別々だったようで、昼になった頃にクラスメイトの一人が田辺がいないことを指摘してまた彼の存在を思い出した。大体いつも弁当やパンを囲んで食べる面子で、田辺がいないのは珍しいのではないだろうか。「そういや田辺は?」「あれ?いねぇな」それぞれに首をひねっていると、近くを通った女子が「ああ、田辺くんなら美化委員に行ったんじゃない?私も行かなきゃ」と情報を提供してくれた。「ふーん、さんきゅ!」野本が代表して礼を言う。「なんだ、委員会か」しばらくして教室に戻った田辺は、購買が売切れで何も買えなかったと嘆いていたので、心優しい葉山がブラックサンダーを1つ恵んでやっていた。

 

放課後は何人かでゲームセンターに行くことになった。だらだらと坂を下りながら、洒落た意識のあるやつはどんどん制服を着崩していく。ゲームセンターではひたすら小銭を消費し、ちょっとした駆け引きを楽しむ。騒がしい店内で、俺ともう一人が対戦しているレーシングを囲む仲間の誰かが、不意に「田辺⁉︎」と驚きの声をあげた。対戦中に目を離すわけにもいかず、俺と対戦相手は必死に画面に食らいついた。「えっうそ、田辺やべぇ!」「ちょー強え!」どうやら視線を釘付けにしているのは田辺のゲームテクらしい。さっきまで俺の右手からバナナ行けーっ!とか叫んでいなかったあいつ?「あいついつの間に格ゲーやり始めたんだ…?」こちらの勝負は俺の負けで、先にゴールして終わらせた相手は既にそちらを見ていた。こちらもなんとか車をゴールまで運んで、視線を上げた。田辺の格ゲー画面には既にYou Win!の文字が瞬いていた。

 

ようするに何が言いたいかって?田辺悠希の存在感は薄いってことだよ!今朝まで忘れるくらいには。

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