コミュニケーションって難しい/棘/峠野颯太

「なんやねん、その言い方」
いやいや、待って。待ちましょうお母さん。これは審議ものです。私は今、あなたの「こんなことがあって」という報告かつ愚痴のLINEに「そうか」と送っただけです。

どうしたらよかったんですかね、「分かる」と同意すればよかったんですかね。いや、何も分からんのです。「職場で佐藤さん(仮名)が本当にムカついて」と言われたところで、私は佐藤さんを文字上でしか知らないのです。母親の文脈によって語られる佐藤さんとは、実際の佐藤さんとは異なるはずです。私は昔、噂話だけでとある人物を判断したものの、実際は全く正反対と言ってもいいような性格だった、という経験をしたことがあります。それからは、「自分で経験するまでは勝手に語るな」をモットーに人付き合いをしてまいりました。だから私は、この佐藤さんを勝手に批判することができません。せめて一目でも会って、佐藤さんを私が実際に体験しなければならないのです。感情なしの同意など、何の意味もない。そう思って私は、母親を肯定も否定もしない形で、話を聞いていますよ、ということを暗に示したのです。

ところが、私の思惑とは裏腹に、母親は憤怒しました。面倒な性格ですね。私の母親は変に女性なところがあるのです。普段はそうでもないし、むしろサバサバしているというか冷めているというか、どちらかというと男性的な考え方をする人なのです。しかし、自分が被害にあったとき、遭いそうなときになると酷く(面倒な)女性になります。詳しくは彼女の名誉のために(仮にも私の母親ですので)割愛しますが、私は彼女のそんなところを反面教師にして生きてきた節があります。だから、やけに女性が嫌いなのかもしれません、と私の話になってしまいました。

話を戻します。私にとっては、彼女を傷つけまいと選びに選んだ一言が、逆に彼女の逆鱗に触れたのです。一体全体どういうことなのでしょう。まあ、これが人間付き合い、そしてコミュニケーションなんだよ、と言われればそれまでかもしれません。しかし、私はそれだけで終わらないと思うのです。これってきっと、いろんな人が経験のあることでしょう。特に男女の付き合いにおいては、文化や言語の違う生き物同士が交流するわけですから、齟齬が生まれることは必至です。そんなつもりで言ったわけじゃないのに、相手はそのつもりとして受け取る。自分の知らないところで勝手に傷つくのです。言った当人には見えない棘が、言われた相手には見えるわけです。そんなの避けろよ、とか、自分に責任はない、と考えたくなりますが、そうはいかないのがコミュニケーション。傷つけないように、傷つかないように互いが互いを気にかけながら、自分を守りながら会話をするのです。

とはいえ、彼女は私の母親です。私と一番長くいて、私のことも多分この世で一番知っている存在です。だから私が彼女を傷つけるつもりで言ったわけではないということを、彼女は分かるはずなのです。私にも、彼女にも、互いの棘がみえるはずなのです、少なくとも他の誰よりも。でも、結果、私は彼女を傷つけた。そしておそらく、彼女は私が彼女を傷つけたことに傷ついているということに気付いていません。血のつながった親子でさえこれなのです。では、血縁関係のない赤の他人ではいったいどうなのでしょう。きっと、互いが互いを傷つけあっていて、それに互いは気づいていないのです。気づかないふりをしているのです。こう考えると、やはりコミュニケーションって難しいですね。でも、私たちは、そうやって傷つき傷つけあうことで、成長している…のかもしれませんね。

とりあえず、母親の機嫌取りはもう少し違う方法を探してみたいと思います。あぁ、非常に面倒です。

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「コミュニケーションって難しい/棘/峠野颯太」への3件のフィードバック

  1. 自分も割と被害妄想的な感情がある人間なので、確かに少し冷たい返信なのかなあ、と思ってみたり。でも、正直LINEという文字媒体ですからしょうがないと思いますけどね。

    被害妄想持ちから語らせてもらうと、何気ない一言の裏をものすごく無駄に勘ぐってしまうんですよね。1の行動に対して、それがいかに何気ないものでも、10の意思を想像してしまうんです。「あなたの発言で傷付きました」「そんなこと思ってないよ、思ったことそのまま行っただけ」「無意識に言ったってことは、意識の内側に悪い感情が眠っているんだ!」みたいに。めんどくさいですね。書いてて思いました。ごめんなさい。

  2. なぜか、コミュニケーション云々よりも、お母さんの女性的な側面の話の方に惹かれてしまった。峠野さんは、母親を意識して、人にめんどくさく思われたくないという思い故に、少年を目指して(?)いるのか。
    最近、家族とも恋人とも友達とも、誰とも分かり合えないし、誰も信用できないのだということを悟って、つらい。こんなにもうまくいかないのなら、いっそ最初からコミュニケーションなんて存在しなければいいのにと思う。

  3. 本当に感情ってやっかいですよね。でも感情がないと楽しい想いもできないわけでうううん。

    お母様、面白いですね。よくいるタイプな気もするけれど、だからこそもっと深く知りたい。親に気を使う子供というのは見ていて苦しいけれど、親子って本当に気兼ねなく話せる存在であるべきなのか、むしろ他人より遠い時ってありませんか?ごめんなさい、感想ってより吐露になっちゃいましたね。

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