丸、それは全方位/棘/猫背脱却物語

棘と聞いて思いつくもの。ウニ、栗、ハリネズミ、バラ、斜に構えた卑屈な輩。
棘あるものには近づけない。普通に刺さると痛いから。攻撃的な、単純な構造である。

 棘が棘としてトゲトゲできるため欠かせないこと、それは「生えていること」だと思う。どこかから棘が生えて底面から垂直に伸び、重力に逆らって先端を宙に浮かせているからこそ、尖った部分が他の物と触れ合う。そこで初めて棘は、自分に向かってくる物に対して刺さるという、自らの役目を果たす。

 じゃあ生えていればなんでもいいのか?そんなことはない。ここで棘の心強い味方を紹介する。それは丸である。棘が丸を中心にして垂直に伸びていると、これにどこから突っ込んで行こうとも、自分の方に先端が向いている箇所が存在する。丸から棘が生えることで、全方位にトゲトゲできるのだ。これが四角だと死角だらけなのだ。思えばウニも栗もハリネズミもその棘を球状に近い中心から生やしている。薔薇の棘も、円柱状の茎から全方位に棘の先端を向けている。さすが自然界、トゲトゲするもの皆賢い。

 人間界ではどうなのか。知り合いにトゲトゲしている人がいる。ありがとうと素直に言わない。嬉しいと素直に言わない。常に不満げに口撃的に生きている。こういう人って誰彼構わず同じ態度である。まあとある誰かからに対してだけ物腰が柔らかかったりしたら、その優しさばかりフィーチャーされてしまう気もするから当然だが。やはりその点では、こういう人たちは全方位にトゲトゲしている。丸から棘が生えているのだ。

 じゃあ人間界、トゲトゲするもの皆賢い?
棘が全方位に向いているのは、あらゆる方向から自分に向かってくるものに対処するためだ。ではなんで棘が必要なのか?答えは簡単で、どんな方向からの攻撃からも、大事な自分の身を守りたいのだ。そう考えると尖っていることは一見攻撃的に見えるけれど、なんとかして自分を守りたいという、一種の弱さから生まれているとも考えることができる。棘の中心部にある自分の中身は大事だと信じてやまない、だからこそ守るためにはトゲトゲするしかない。そういう人に限って、棘の隙間から中心部の本音が垣間見えるし、なんならちょっと垣間見てほしいと思っていそうな気さえする。トゲトゲをかい潜って、本当の自分をわかってほしい、何て思ってるんじゃないかなあ、なんて。

 自分が可愛いから周りにトゲトゲするのだ。例えばウニの中身があの雲丹ではなくフジツボだったら、あんな尖ってる意味なんかないが、どうやら人間はそうは考えない。人間界のトゲトゲするものはあまり賢い気がしない。でも、トゲトゲでもしないと大切な自分を守れない、と思って必死にトゲトゲしている様子には、「素直になればいいのに」なんて可愛らしささえ覚える。

       と、思っていたのだが。

「あいつっていつもあんなんだけど、たまに弱いところ見せるからほっとけないわな」
その知り合いとの共通の友達と話していたときのこと。えっ?そうなんだ。ああ、あれかな?酒飲んだりするとそうなるのかな。いやまだあいつと行ったことないからさ
「え?いや普通に。普段からたまーにだけど、二人でいるとき本音とか吐いたりしない?」

 …ああなんだ、素直になればなんて思ってたけど、私以外には十分素直なのか。

棘が中心部に向かってくるものに向けられているのだとしたら、そもそも私は中心部に向かわせてもらえていなかったのか。傍目から尖っているあの人の姿を見て、私に対してもその棘が向いていると勝手に考えていたのか。
 つまり、『弱いからこそトゲトゲして守るしかないんだよあなたにも』と考えてると勝手に思い、「その棘の隙間から見える本音とか可愛いなあ」と思っていた。実際は「トゲトゲを潜って本当の自分をわかってほしいなんて、別に君に思っちゃないよ」ということなんだろう。棘の向く全方位の中に私も収まっていると思っていた。そんな保証はどこにもないのにだ。自意識過剰なのは私だ。恥ずかしい。寂しい。

 もうこうなると棘あるものが可愛いなんて迂闊に言えない。棘あるものには近づけない(普通に刺さると痛いから)し、棘あるものには近づけない(丸から向いてる全方位の棘は、私に向けられてないかもしれないから)。棘ってこんな複雑だったけ。丸から生える棘のせいで、何にも丸く収まらない。

0 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 5 (0 投票, 平均点: 0.00,  総合点:0  |  
投票する為にはユーザ登録する必要があります。
Loading...

「丸、それは全方位/棘/猫背脱却物語」への3件のフィードバック

  1. 上から目線?で人を見ていることに気づいたとき、やっぱ恥ずかしくなります。
    あとなんか普段トゲトゲしてる人が別の一面を少し見せただけで、あの人意外といい人なんじゃんって一気に簡単にプラス評価になったりしてるのを見ると、なんやねんって思うことはあります。

  2. 本当は本音を吐かれているのに気づいていないだけでは?と思わないでもないですが、たしかに本音を見せられると嬉しいですね。たとえ中身が雲丹でないとしても、きっとあの人の中には極上の雲丹がぎっしり詰まっているんだと期待することで楽しく生きるというのはどうでしょう。中身もまたトゲだとしても、突き刺さるのは自分だけです、なにも困りません。少しショックを受けるだけです。
    人間関係をトゲと例えるのはよくあることですが、トゲの球体という比喩はしっくりきたし、面白かったです。なるほど!という感じというかわかりやすいというか。切り口が魅力的でした。

  3. 棘がこちらに向いている時も怖いが、実は自分なんか見向きもされず、棘なんか自分に向かってないと考えるのも怖い。
    いっけん関わりのなさそうな棘と丸の関係性が面白く、確かに、なるほどと納得させられた。

    これは自分の興味だが、そのトゲトゲしている後輩の本音なんかも聞いてみたいと思ったり。また新たな発見があるかもしれない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。