女の独白/棘/フチ子

自分も、他人も、何を考えているかわからないからその場の気分の雰囲気でふらふらとし、ときどき倒れる。いつも気分次第だから自分自身では正常の判断などできず、関わった周りの人がどれだけ善良かによって私の人生が決まる。今まで狭く深くの人間関係を築いていた私は、たまたま恵まれていて狂うことはなかったけれど、自分の中に確信を持ったことはなく、勘違いと妄想と、衝動的な感情に振り回されて生きてきた。

1ヶ月お付き合いしていて振られたのち、友達になった彼は私に手を出してこなかった。彼は付き合っていなくても、わりと誰でも手を出すような人だったから、襲うほどの魅力がなかったのかと落ち込んだり、少しでも私のことが大切だから適当に手を出したくなかったのかと期待したりしていたけれど、どっちも不正解だったことを知ったとき、なんだか絶望した。単純に私が彼にとってまあまあ大事なコミュニティーの中に私がいて、私を抱くことによるリスクが重かったからこそ、抱くことなく別れただけだった。こんな分かりやすいこと、私以外すべての人が気づいていたようなこと、馬鹿ではない私はわかるはずのことであるのに。全然頭になかった、のか、わからないふりをしていたのかわからない。悔しいし、恥だ。

濃密なコミュニティー内のみで人間関係を築こうとすると、その人の表の部分と接することになるから、私が感情的な人間でも、間違いが起こることは少ない。相手に「今ここでこいつに手を出して、それでヤリ捨てされたと泣きつかれたら、男であるおれが悪者になりかねない」と自制が働く。私は、私を愛していない、表の顔を持つ男たちによって守られていた。ただそれだけの話で、ロマンチックも理想もない。

浅いコミュニティーの中での恋愛は賭けでしかない。HUBで出会って、気に入られ、サシ飲みをした彼に、付き合っているという認識だと言われ、次は家に来ないかと言われたとき、これが世に言うヤリモクかと疑心暗鬼に囚われた。しかし私は理性的に自制などできず、顔や雰囲気がタイプの男性に求められるとどうもだめで、きっぱりと断ることもできず、一日中寝れなかった。セックスはしたいけど、すぐに捨てられるのは傷がつくから嫌だ。できればちゃんと付き合いたい、後悔もしたくない。グルグルと頭を巡らせてみるも、どうせ私は行ってしまうのだろうという結論が目に見えていた。いつから私は軽い女になったんだと考えてみたけれど、私自身は全く変わっていなくて、置かれた状況が変化しただけだった。

21年付き合った自分自身の生き方や性格を最低限分析したあと、せめて論理武装しようと考えた。なぜ彼の家に行ってセックスをするのか。ちゃんと考えた結果、セックスをしたのだという確信を得るために。たとえ考える前から行くことは決まっていて、その上で悩んでいたとしても。

何度2人でデートを重ねたところで、その目的がセックスを果たすためであったらそれは誠実ではないし、出会った当日にセックスをしたところで結婚を前提とした恋愛に発展するかもしれない。HUBという、素性もわからない全く違ったジャンルの人とのお付き合いは、10回お昼にデートをしたところで、どんな時間をかけても、それが本気かどうかなどわからない。セックスをした結果、捨てられるか否かでしか、私の疑念が晴れることはない。その人を本当の意味で信じられるのは、100回くらい身体を重ねてもなお私と会ってくれる、ご飯を食べてくれる、どうでもいい会話に付き合ってくれる、そんな結果がないとだめだ。ならば、好きで付き合いたいなら、迷う必要がない。私の考えた苦し紛れの完璧論理はこれだ。

意外にも喪失感はなかった。私は見る目がないから判断できないけれど、今日だけで終わる、というわけでもなさそうだった。後のことは知らない。私はこうして汚れていくのかと思ってみたりするけど、実際汚れた感じは全くしない。このまま、彼の雰囲気や生活感にはまってしまって、どっぷり浸かったあとにLINEブロックでもされたら、またお酒に溺れて忘れよう、なかったことにしよう、と予防線を張りながら歯ブラシと部屋着を置いていく。「この歯ブラシぼろぼろになるまで付き合ってね」と、ふざけつつも、本気の疑いを彼に向けて、弱々しく、刺々しくつぶやいた。

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「女の独白/棘/フチ子」への3件のフィードバック

  1. 自身とはまったく別の世界を覗いた気がしました。なのに、一つ一つの言葉も倫理も気持ちもわかる。そうなるともはやセックスやお付き合いやら「行動」の部分の道筋の、手段の取捨選択の差異でしかないのか。対照実験したい気分です。
    状況や関係を過不足なくふまえて、物事を伝える文章力に感服しました。

  2. 自分の、デリケートな部分、自分本位で考えてしまいがちな部分を自分の立場から的確に文章にまとめたのはいいなと思いました。なぜHUBで出会おうと思ったのかに触れるとさらに話が膨らむような気がします。

  3. 漢字とひらがな、英字のバランスがよく、改行がないのに読みやすく配置されていました。非常に女性的で、かつ自傷的な文章。なぜ人は危うさを自覚しながらそれを求めてしまうのでしょう。
    言葉を選ぶべきかもしれませんが、性的にルーズな人への印象がまた変わって見えます。例えるなら、めちゃくちゃコミュ力が高い人も実は、自称「コミュ障」と同じくらい対人関係で苦労している、みたいな。最初の一文がとても良かったです。

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