能ある薔薇は棘隠す/棘/ヒロ

それはある一人の庭師が原因、いや発起人だった。
その日彼はいつもどおりに仕事であり、趣味でも趣味でもある薔薇の手入れをしようとしていた。
しかし、そこで足を滑らせて転んでしまった。前日にかなりの雨が降り、土がぬかるんでいたのだ。
そして転んだときに薔薇の棘が頭に刺さってしまった。するとその庭師はなんととんでもないレベルの天才になってしまったのだ。過去に頭からネジが一本抜けてバカになってしまった事例があったが、頭に棘が刺さると天才になってしまうとは衝撃的な発見だった。
そしてその天才になった庭師はすぐに学者となり、薔薇の棘に含まれる成分ががんの特効薬になることを世界中に発表した。

その発表は全世界に一つの風を起こした。空前の薔薇の棘ブームが起こったのだ。
世界中で薔薇が育てられるようになり、多くの農家がオリジナルの薔薇を開発した。あらゆる場所で祝いとして薔薇の花束が渡されるようになり、「綺麗な薔薇には棘がある」という言葉の意味が綺麗なものには一見無駄に思えるものがあるが、それはそのものの価値を高めるものなのだというものに変わった。
肩にトゲを付けることが流行り、ファッションの最先端が北斗の拳となった。
月に薔薇を描こうというプロジェクトが立ち上がり、例の庭師が宇宙飛行士となり、月まで行き月に薔薇を描いた。過去に月にハートマークや恋人の名前を書こうとして失敗に終わっていたため、それは世界的な絵画となり、特別世界遺産となった。庭師はまだ存命だったが遺産とされた。
頭に棘を刺すことはあまりに危険な可能性が高いとして例の庭師が禁じたが、成功すれば天才になれるかもしれないと秘密裏に棘を刺し、失敗して廃人となる人が後を絶たず、薬物に並んで棘の私的利用が違法となった。

世紀の発見の10年ほど後に、薔薇の品種改良が進み、薔薇が二足(二根?)歩行できるようになった。
しだいに薔薇は知性を持つようになり、人間との間に独立戦争を起こした。
それはひどく哀しい戦いであった。たくさんの人が、薔薇が散っていった。人間が開発した特殊な除草剤が戦争に使われ、多くの薔薇が虐殺された。
最終的にはあの庭師が人間と薔薇との間を繋ぐ交渉人となり、和平が結ばれた。
薔薇たちは平和の証として自分たちの茎から棘をなくし、人間たちは髪の毛を剃った。
その後薔薇たちの協力もあり、人間は光合成ができるようになった。食糧問題が解決し、地球には新たな時代が幕を開けたのだった。

他の星から植物を食べるタイプの虫型宇宙人が現れ、薔薇と人間が手を取り合って共に戦ったことは、また別の話である。

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「能ある薔薇は棘隠す/棘/ヒロ」への4件のフィードバック

  1. 薔薇の棘が頭に刺さって天才になった話はカフカを彷彿させるが、その原因は棘に含まれる成分というのはすぐに判明し個人的にもっと狂った展開を期待していた。

    薔薇ブームはオランダのチューリップバブルを連想させました。一つの花で社会現象を起こすことは随分あり得ると思いました。しかし最終的に人花戦争まで発展してしまったのはただ意外性のある展開を求めるために書いた印象を受け、筆者の意図が良く分からなかった。

  2. SFという分類になるのでしょうか。面白かったです。でもさすがに薔薇が知性をもつまで庭師は通常生存できないと思います。現実より高度な技術がある場合には、舞台設定にもっと具体性をもたせると読みやすいです。

  3. B級のSF映画みたいで割と好きです。吹っ飛んだ設定は細部の名詞や行動にセンスが必要だと思っていますが、個人的には最初のキッカケと北斗の拳レベルのものがもっと欲しかったです。

  4. 薔薇が二足歩行ってきしょいですね。あ、でも綺麗かな、どうでしょう。
    設定がなかなかぶっ飛んでいて面白いと思うのでもうひとひねり物語に展開が欲しかったです。全て庭師が生きてる間の話だと思うと技術の発展て怖いなぁなんて。

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