おっちゃんの棘/棘/きりん

2限の朝、向かい側のホームにいつも同じおっちゃんがいる。普通そんなこと気にしないものだと思うが、なんで気になるかって、その人がいつも赤いネクタイを締めているからだ。勤めているのかどうなのか、ネクタイ以外はラフな格好で、しかも赤だけで多分数種類を使い分けている。それがわかった時から正直もう気になってしょうがない。まだ寒さの残る春でも、いい加減蒸して暑い日でも、これはゆずれんナ、という顔でつけておられる。表情も厳しくて、どこか挑戦的だ。

今日のおっちゃんは赤いネクタイ、半袖の白シャツ、釣りにでも行くかのようなベスト。そして目深に帽子をかぶった完全実用仕様。いったいどこへ行くのか知らないが、ネクタイだけが刺々しく朝日を反射している。

いつか、まぁないとは思うがおっちゃんに理由をきいてみたい…。脳内で何パターンか解答予想をしてみる。

そのいち。「いや、妻が赤が好きでな。私に赤が似合うというものだから」
これはなかなかイカしたおっちゃんだ。はにかみながら、だったりしたら世の中の枯れ専はいちころだろう。おじさんに幸あれ。

そのに。「ネクタイといったらやっぱり赤だろう?」
これでもかというほど赤にこだわっているに違いない。例え青のネクタイを贈られても、決して箱から出そうとはしないだろう。率直に言って死ぬほど面倒くさい。が、こんなわけわからないようなこだわりが結構好きかもしれない。

そのさん。(怪訝な顔で見られる)
何言ってんだこいつ?あるいは、お前みたいな若造に俺がこの深い訳を話すと思ったかこのやろう。前者だった場合、常時赤いネクタイを締めていてもこのおっちゃんはその辺りのおじさん類と何ら変わらないちょっとした変異種であるということがわかる。後者だった場合、もう尊敬する他ない。

そんなことを考えていたら、どうやら電車を一本乗り逃してしまったようだった。おっちゃんの姿も既にない。残像のように赤い色だけが目の前を過ぎた気がした。

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「おっちゃんの棘/棘/きりん」への2件のフィードバック

  1. 実話な場合はその人に会ってみたいです。毎日赤ネクタイを付けていたら身体の一部分と見なしていてもいいからあの人の棘になったのだろうか。しかし毎日同じ時計を付けているとか、同じ靴を履いているとかなら、ホーム越しでは絶対気付かないと思うので、異様なものに目を引くのは人間の悪い癖と言ってもいい。

  2. おっちゃんの回答のくだりはもっとテンポをよくするか突飛な回答の想像があってもいいかなぁと思ってしまいました。赤っていう色こそが棘という発想はすてきです。

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