オンリイ・ユウ/明るい話

「このスカタン!」
痛いようと泣きつけど、嘘泣きはやめろと一蹴。己の筋肉というものを理解していない、我が父といえど脳味噌の有無を疑う。
「別に構わんじゃないかよう」
胸に毛皮を抱き締める。
「いいや、犬猫なら文句は言わねえ」
「言ったぜ、前に猫連れて来た時。こんな爪の生えた毛玉を家の中に置けるかって」
「そんなことはいいんだ。何だそれは」
家の碩学、そこまで高慢にもなれないが、それでも百科事典を枕としてきた日々を否定させはしない。しかしその自負を持ってしても何の生き物かは判然としない。なんなんだこれは。
「犬じゃないか」
「顔はな。鱗じゃねえのかそりゃあ」
「ワニに似てる。おお、この目の感じはカイマン。毛の生えたメガネカイマン」
「要は妖怪だろうが」
妖怪の定義には異論を唱えたいが、今はそんなことは問題ではない。
「だからこそだろうに。他に誰が、こいつを育ててやれるっていうんだ。親もなく兄弟もなく流れる時の流れに身を任せ血も涙もないこの世の中で涙を零して耐え忍び……」
「ええい、無駄に肺活量だけは一人前で。わかったよわかった、アア母さんにはお前が言えよ」

名前をつけた。やはり名前となれば立派なのが良い。トロツキーから取ってトロとする。他意はない、トロツキーもよく知らぬ。メガネは威風堂々としていた。
トロはよく食べた。その分大きくなるは必然、慎重に与える。お陰で今も小型犬くらいの大きさで、ガムガムと犬の肉缶を貪る。うまいか、と聞くとガムガムと答える。良い子だ。将来、僕が餌になっても文句は言うまいよ。父さんは遠巻きに眺め、母さんはきみ悪がりはしないものの、やはり触るのは嫌らしい。別に構わない。世話をするのは父母の仕事ではないから。
「散歩に行くかトロ」
「ガムガムガムガム」

ご近所にも白い目、いやもう異物を見る奇ッ怪な顔を向けられる。トロは特に気にもしてないし、気にするものではない。近所の友人も遊びに来なくなった。気にするものでもない。
「気になるかトロは」
「ガムガムガム」
「お前が良いならそれでいいよ」

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