いつもの日常、あるいはそれぞれの現実について/妄想/ヒロ

「妄想ってさ、『亡き女を想う』って書くじゃん? つまりさ、生きている人のことを考えることは妄想ではなくて、やましいことなんて欠片もない健全で正常なことなんだよ」
 いつも通りの昼休みの時間、俺たちはいつもの三人でいつものように集まって昼飯を食べていた。授業中の先生の言葉からふと思いついたこと、要するにただの無駄話を二人に自信満々にしていた。

「うーん、それはどうなのかなぁ。でも悠はそういうことを考えるのは悪いことじゃないと思うよ。あったらいいなぁってことを考えるのは楽しいもんね。悠もこの後のデザートのこと考えると楽しみだよ」
「そうね。だけど宗くん、そんな実際には存在しないものを考えることよりもまず現実に目を向けたほうがいいんじゃないかしら?」

 俺の言葉に答えてくれたのは生まれてからずっと一緒にいる幼なじみの悠と今のクラスになってよく話すようになった涼子さんだ。
 この年になっても仲のいい幼なじみが珍しいのか俺と悠によく話しかけてきて、俺たちの関係について質問されたりしているうちに仲良くなったのだ。俺よりも頭が良いからかたまに何を言っているのかわからないときがある。

「そうだけどさ、悠が言ってるみたいにそういう楽しいことを考えるのは悪いことじゃないだろう? こないだのテストのこと考えてるよりよっぽどいいよ」
「うんうん。テストなんかよりデザートだよね。宗くんいいこと言ったよ」

そうやって二人で仲良く頷き合っている姿に呆れたのか涼子さんはため息をついた。
「まったく、あなたはもう……。まあ、いいんじゃないかしら。最近は結果も安定してきているものね」
「まあまあ。涼子ちゃんも妄想を、いや、亡き女を想ってみるといいよ。低空飛行の成績を考えるよりもずっと楽しくなるぞ」
「わーい、涼子ちゃんも悠と宗君と同じ妄想仲間だぁ」
「結構です」
 はあ、と先ほどよりも大きなため息をついて涼子さんは答えた。

「そういえば宗君、体調は変わりない?」
 話が一段落すると涼子ちゃんが俺のことを心配したのか俺の体調について聞いてきた。いつだったか、俺が怪我をしてから涼子ちゃんは度々俺の体調を聞いてくるのだ。
「大丈夫ですよ。どこも悪いところはありません」
「悠もー。全身に力がみなぎっているよー」
「はい、わかりました。良かったわ。それではそろそろ時間ですので私は失礼するわね」
 そう言うと涼子さんは席を立ち、自分の席に戻っていった。もうそんな時間だったのか。俺も早く次の授業の準備をしなきゃな。
「ねえ、宗くん。今楽しい?」
 次の授業の準備を慌ててこなしていると、悠が問いかけてきた。どうやら心配をかけてしまったらしい。俺は悠を安心させるために笑って言った。
「ああ、楽しいよ。悠が居て、涼子さんが居て、毎日が本当に楽しい。こんな毎日が続けばいいって心底思うよ」
 悠はその言葉を聞いて満面の笑みを浮かべた。
「良かった。宗くん、ずっといっしょにいようね」

「先生、野田宗助さんの具合はどうでしたか」
「特に変化はなし。いい方にも悪い方にもね」
「ということは相変わらず学校で『悠』という少女と話していると」
「ええ、ただ最近は『悠』が現状や妄想を肯定しているらしいわ。無意識のうちの抵抗かしら」
「まあどっちにしろ私たちは治療を続けるだけですね。根気強くいきましょうか」
「そうそう、こういうものは時間をかけて根気強くいかなくちゃね。さあ、次の患者さんのところに行きましょうか」

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「いつもの日常、あるいはそれぞれの現実について/妄想/ヒロ」への4件のフィードバック

  1. 三人の会話としても成立しているし、よくできていたと思います。ネタバレ後に読み返せば、ちゃんと涼子さんの言っていることも分かるし、とくに成績のあたりが上手いこと理解の入れ違いが起こっていて。
    この文ならば、もう少し空白を開けるなどしておいてもよかったかもしれません。

  2. なるほど、妄想ならではの文章ですね。
    ありきたりだ と言ってしまえばそれまでになってしまうのですが、私は面白いとおもいました。前の方もおっしゃっていますが、空白があってもいいのかな、と。

  3. 二回楽しめる文章。二つの妄想を使ったのが、とても良くできているように思います。最初の一文がネタバレのあとに、上手く響きますね。

  4. 涼子さんというのは先生という解釈で大丈夫でしょうか?悠に感じる幼さというのが妄想の中の登場人物というのを表しているような感じがしました。宗が寝たきり状態にあるのか意識がはっきりしているのかはあまりわかりませんでした。

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