パールホワイト非情/なべしま/妄想

他愛もなく、記憶のかなた。懐古にはあまりに隔絶。夢にしても淡泊。思い出したらもったいない、そんな昔の話です。
生き物を飼っているというご家庭は、そう少なくはありませんでしょう。私の家もその例に漏れず、実家は色々な生き物がともに暮らしました。
イヌにネコに、メダカにキンギョ。夏のあいだはカブトムシ。中でも思い入れのありますのは二匹のハムスター。名前を千代丸といいまして、一匹は私の空想でした。

小さな種類で手に収まるほど、白いハツカネズミのよう。背中には銀色が一筋。床の掃除、散歩、冷蔵庫裏に逃亡、捕獲。掃除機による吸引未遂。ゲージからの落下による骨折。泣いた。
こんなに可愛い生き物を連れ歩きたい。しかしハムスターは夜行性であり、ひとたび寝床の中に指を突っ込もうものなら、ひっさつまえばよろしく、指先に攻撃を仕掛けてくる。痛いが、何より人間とハムスターの境界、限界、ならぬものはならぬのだと学んだ。そういうわけで、私はもう一匹のハムスターを連れ歩くことにした。登下校中には左手に包み込み、右手で優しく撫でる。幸い共に帰るような友人はそんなにいない。週に一人、二人。ある時その一人が何を撫でているのと聞いたのでハムスターと答えた。それから誰かと帰った記憶がないが、まあそんな、誰と帰ったかなんて些末なことなんて覚えているわけない。しかし自省の心を覚え、なんだかその子に申し訳なくはなった。
家に着くと肩に置く。それか、自分で肩まで向かう。小さい脚、固い爪を肌にひっかけよじ登り、首筋を伝う。頭のあたりがフサフサするのでおそらくその辺にいるのだろう。

それがいつの間にやらどこかへ行きましたものか、見えなくなりましたか。こうして手のひらを丸めてみてもさっぱりやっては来ません。寂寥感もありませんし、虚無感、罪悪感なんてありましょうか。無情になったのかしらん。千代丸と一緒に死んだのかもしれません。それともどこか、知らぬところで飼われているでしょうか。私はすっかり忘れてしまいましたし、それなら嬉しいのですが。

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「パールホワイト非情/なべしま/妄想」への3件のフィードバック

  1. 切ないというか、なんというか。切ないみたいな陳腐な言葉で終わらせたくない。先に行ってしまえば、ものすごく好き。ごめんなさい、ほんとに好きなのであまりろくなコメントかできない。話の内容と文体がマッチしていて、上手い使い方だと思いました。

  2. 出来事自体は現代のことなのに言葉遣いのせいか妙に古文感の漂っていて、そこのギャップがなんともいえない不思議な雰囲気を醸し出していたように思えます。言葉遣いでもう一ついうと最初と最後は丁寧語なのに途中、語り口調が変わるのはなにか狙いがあってのことなのでしょうか。

  3. 淡々とした語り口調が、非現実感というか絵空事のような感じをより強くさせているのかもしれません。
    真ん中の文章が、区切れがなくて読みにくいかもしれません。段落がひとつでもあると読みやすいと思います。

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