妄想三番勝負/妄想/ノルニル

 

妄想ライフハック

 

     妄想は世界をすこしだけ生きやすくする。

 

     慣れないスーツに身を包み、ターミナル駅で行列に並んで電車に乗り込む。運よく座席を確保したものの、目の前には二人の夫婦。
     どうやら他の人と争って席を取り合って、結果負けてしまったらしい。自分の隣の席がひとつ空いているけど、これじゃ片方しか座れない。遠慮がちに妻の方が自分の隣に座る。
     これから40分ほど電車に乗るけど、黙って席を立った。妻のほうが目を丸くしているのを横目に、すこし距離をとってみる。すると夫の方が、横柄な態度で譲った席に座った。

     つり革を握って、人垣の間からちらりと夫婦の様子を見る。夫の方はずっと憮然とした様子だ。見たところ特に荷物もないし。自然と自分の抱えた荷物や、揉まれて乱れたスーツに視線が向かう。こんなことなら譲るんじゃなかったかも。
     いやいや、とかぶりを振った。もしかしたら夫婦のどちらかは、身体が弱くて電車で立っているのが辛いのかも、とか、長らくデートしてなくて今日は久しぶりのデートなのかも、とか。そういう風に思えば気はいくらか楽になる。

     自分勝手な思考や願望に他人を当てはめ、自分の心のなかだけの物語にすることで自分がしたことをを正当化する。そこに理由が生まれれば不満の溜飲も下がる。妄想することで、世界はすこしちがってみえるのだ。

 

     手持ち無沙汰な移動中、スマートフォンに「Ingress(イングレス)」というアプリをインストールした。
     イングレスは言ってみれば、リアル空間を舞台とした陣取りゲームだ。プレイヤーはエンライテンド(緑)とレジスタンス(青)に分かれて、それぞれの領土の拡大を目指す。青が好きだし、抵抗勢力はロマンあふれるからレジスタンスを選んだ。

     さてこのゲーム。面白いのが、ポータルと呼ばれる拠点が現実世界でのランドマークだとか、彫刻や看板とかいった目印になっているということだ。プレイヤーは自らのスマートフォンをレーダーにしながら、GPSを利用してポータルを探して起動し、他のポータルとリンクを確立して領土を広げていく。
     それらのポータルは非常に数多くのユニークな場所に配置されている。というのも、もともとイングレスはGoogleの研究の一環だったため、Googleマップの情報を利用しながら現実世界と仮想空間の繋がりを可能にしているというわけだ。

     そして、イングレス最大の魅力はここにある。ポータルとして設定された場所を訪れることで、プレイヤーは今まで現実で見向きもしなかったものに目を向けることになる。仮想空間から現実世界へと飛び出すような、新たな発見があるのだ。
     また、ポータルとポータル、つまり場所と場所をリンクさせることで、世界を繋げていくような高揚感が生まれるのも大きな魅力のひとつだ。思い出は場所に固定されるというのが持論だが、これは他の人と自分の思いを繋げていくような感覚を与えてくれる。

     こうした付加情報の技術、ARは近年次第に浸透している。妄想するとはすなわち、世界に情報を付加することだ。それにより、時に世界はいつもと異なる姿を見せる。そうして少し、世界は生きやすくなる。

 

     イングレスのチームは来月、任天堂と共同のプロジェクトとして現実世界でのポケモンゲット&バトルを可能にするアプリ、「Pokémon Go」を配信するそうだ。プレイヤーはトレーナーとしてポケモンを持ち歩き、野生のポケモンにモンスターボールを投げ、時には他のトレーナーとバトルする。
     「かがくの ちからって すげー!!」多くのゲーマーが思い描いた世界が、現実のものになるときが来た。こうしていつの日か、少年の妄想は現実になるのかもしれない。

 

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「妄想三番勝負/妄想/ノルニル」への3件のフィードバック

  1. 書きたいことが定めきれなかったので、ページを分けました。2ページ目以降はスルーするか、もしくは興味のあるページについてフィードバックいただけるとありがたいです。ごめんなさい。

  2. ポケモンバトルが現実でできるようになるのはすごいと思った。仕組みよく分からないけど。でもこの情報はちょっと蛇足かなと思った。

  3. 1ページめについて
    はじめは、席を譲るだけの身近な話だったのに、どんどん飛躍していって終着点があまりにもかけ離れていたことに驚きました。最後に、アプリから戻ってもう一度主人公の置かれている状況を描写しても良かったと思います。

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