ジャノミチ/模倣文/なべしま

六助は顔を上げた。
足元から続く道の先が、果てない野っぱらの向こうに消える。
所謂獣道というやつなのだろう。
ゆるゆると曲がりくねった道。まるで蛇の這った跡のようだ。
ふと思い立つ。
蛇は獣の一つなのだろうか。どうもそうは思われない。
長虫の名もあるように、いやらしい…… 少なくともアレは、獣らしい素直な、愛すべき直情さを、持ち合わせていないように思う。
「もし、ごめんなさいまし」
鈴を転がすような声が鳴る。
はっとして、六助はくだらぬ物思いから覚めた。振り返る。
場違いなほどに美しい、妙に白い女が立っていた。
六助の連れである。
「もし、どうかなさいましたか?」
「いえ…… ちっと物思いを」
幾度見ても見慣れない、白い面がひらめいた。
「初めてお逢いしたときも、あなたはそうして、何かを思うておりました」
「そうだったかねェ」
そう言われてみれば、そうだったような気もする。
しかし、それがいつのことなのか、六助にはとんとわからない。思い出せもしない。
頭蓋の中をさらっても、まるで井戸の底を覗き込むように、ぽっかりと暗い穴があるだけだ。
諦めて、女に目を戻した。
本当に白い女だ。寂れた道に独り、ぽっかりと夕顔のように浮いた顔。
「あなたは、どちらへ向かわれるのでしょう?…… 失礼でなければ」
そうだ。初めてあったとき、六助は確かに、指で眉をすいた。
昔母が教えてくれた魔除けのまじないである。
(狐ッ公のやつ、ちっとでも油断してるとすぐに、懐のもん盗ってっちまうんだからね)
考えに伏して、またろくに返事が出来ない。そんな六助の目を、恥じるように俯いた、まっさらなうなじが焼く。
途端に罪悪感が胸を突いた。
「いえ、いえ、滅相もありません。こんな人寂しい道でお声を頂戴して、なんの失礼も迷惑も…… イエ、あっしは、そう、家に帰るところで」
女は恐る恐る顔をあげる。
「お家に、それは、ずっと遠くなのでしょうか?」
「いや、それは」
家は、遠かっただろうか。
そもそも、いったいいつからこの道を歩いているのか。それすら定かではない。
あとどれだけ歩けば、家に辿り着けるものだろう。
よろしければ、私もお連れになってくださいませんか?
そう尋ねた女に、六助は是非もなかった。いいじゃないか。旅は道連れ、袖擦りあうもなんとやら。
「ええ、エエ、もちろん。ちょうど、独りには飽き飽きしていたところで」
この道が六助をどこに連れていくのやら、それもわからぬけれど。
どこへでもゆけよう。六助は少なくとも、寂しくはないのだ。

気がつくと、道は途絶えていた。
辿る最中にはいつ終わるものかと嘆いていたのを、なければないで、寂寥が込み上げる。人は情さえ勝手なものだ。
途方にくれて振り返ると、連れていたはずの女がいなかった。
まるで端から何もなかったように跡形もなく。足元には草花だけが揺れていた。
目を先へ戻す。
いつからそこに建っていたのか、それともたった今現れたのか、あばら家が傾いで立っていた。
戸に手を掛け眺める。木の板を立てただけの戸であるが、木目が妙に懐かしい。
躊躇わずに開けた。
「おう、帰ったよ」
おかえりなさいませ、あなた。
「なんだ起きていたのかい。心配させちまったなァ…… まぁなんだか妙に長い帰り路だった、ありゃ狐にでも化かされたかな」
ころころと、鈴の音が笑った。

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「ジャノミチ/模倣文/なべしま」への2件のフィードバック

  1. とても良いです。音などギミックの使い方、改行、言葉選び、モチーフなど完成されていました。動きもありつつ、心情も描かれている。これまでなべしまさんの文章の魅力を上手く説明できませんでしたが、こうして他人?が真似することでそこが際立ちました。

  2. なべしま感ありますね。なべしま感、小説より。
    謎展開が謎のまま説明もされないままなのはすごくぽい。
    あと知識量がもうですね、さすがとしか。むしろご教授くださいというかこれからも宜しくお願いします(?)

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