パンドラのパン工房/模倣文/さくら

東京でコッペパンブームが起こった。
日本では太平洋戦争中や戦後の配給品として普及し、その際にクーポンパンが訛ってこう呼ばれるようになったとも言われる。
にわかに信じ難いが、中にジャムやバター、たくさんの野菜や卵や燻製の肉や鮭、フルーツやクリームなどを挟んで販売する洒落た専門店が多く現れた。
生地もアレンジが加えられ、学校給食め食べたパサついたあれからは遠くかけ離れた、しかし懐かしいフォルムのコッペパンがトレンドになっているのだ。

.

パン工房にやって来たうさこは、町の端のこの店にもトレンドを取り入れて見てはどうかとかそんな話をして帰っていった。
パトロールに行く前に、彼を作った職人と助手の少女に挨拶しようと厨房の入り口に立った僕が扉を開けるのを躊躇ったのがなぜなのか自分でも分からなかった。
立ち聞きなんてみっともないし、二人に声をかけてさっさとパトロールに出かけなければ。

些細な疑問だった。
僕達の仲間にコッペパンはいない。日本では誰にでも親しまれるものなのに珍しい。

.

「勇気の花の研究はね、すごく時間がかかったんだ。もちろんたくさん失敗もしたよ。」

「あれ、言ってなかったかな。君には先代がいるって。
どちらも僕の手で命を与えたんだから、兄弟にあたるのかもね。」

「君のお兄さんもね、人々のために一生懸命頑張っていた。」

矢継ぎ早に続く言葉が理解出来なくて遮った。

「お、おじさん…その、先代は今……」

聞きたくない。聞いてはいけない。そんな警告を無視して問いかける。

「まだ分からないのかい?
パンには、カビが生えるものだろう。」

.

かつてしがないパン職人だった彼が世界をその手の内に収めようと考え始めたのはいつの頃からだったのだろうか。
戦後間もないバラックの並ぶ町並みを見ながら、彼は自ら作り出したパンが飢えや理不尽な暴力に苦しむ人々を守ることができれば、
そう願っていたはずだった。

やがて勇気の花の存在を知った彼は、長きに渡る研究の末パンに命を与えることに成功し、それに人々を守る使命を課した。

そしていつしか街は平穏を手に入れた。

飢餓に苦しむことのなくなった街で、人々の命を救ってきた彼のパンたちはおやつでしかない。
彼はそれに気づいてしまったのだ。

正義は悪がなければ成し得ない。

彼のパンたちを正義たらしめる強大な悪が必要なのだ。

そう、パンの英雄たちを引き立てる俗悪で落ちぶれた

バイ菌が

「バ、イバイ……キン…………」

肌の殆どを黒く蝕まれた彼は力なく笑うとそのまま脱力し、動かなくなった。

0 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 5 (0 投票, 平均点: 0.00,  総合点:0  |  
投票する為にはユーザ登録する必要があります。
Loading...

「パンドラのパン工房/模倣文/さくら」への1件のフィードバック

  1. まずはじめにア◯パ◯マンの基礎知識が要求されていてそこがちょっと面白かった。
    ただ、オチというかがわかりづらく解説が欲しいですね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。