七夕/模倣文/フチ子

「もうすぐ七夕か、何か願い事みたいなのあるの?」
2人で歩いていたら、彼が突然そんなことを言ってきた。七夕なんて、毎年そんなに盛り上がるイベントでもないし、まして彼はクリスマスのような大イベントですらそこまで乗り気ではないのに。どうして七夕にそんなに食いつくのかわたしは不思議でしょうがなかった。

別にわたしは、人より恋愛経験が多いとも少ないとも思ったことはない。ただ、どれも完全に楽しい思い出として、わたしの中に残っているわけでもない。それは皆そうなのかもしれないけれど、恋愛が純粋に楽しい、と最近では思えなくなって、いつも苦しかったり、辛かったり、いい感情が抱けない。それでもわたしは、恋愛なしでは生きていけない。こうしたらきっと彼は、男の人は嬉しいのだろうな、ということも、言葉では分かる。七夕の願い事だって、ずっと彼といたいとか、そういうことを言えば、彼もまた私に相応の愛を返してくれるのかもしれない。でも、わたしたちは今更そういう関係でもない。それに、わたしはそれで喜ぶ性格でもない。だから、言葉に詰まる。

「特に、ないかも」
適当な返事になってしまった。でも彼はそれ以上掘り下げることもなくて、そのままいつもみたいな他愛もない話に変わっていった。わたしはそのいつもの感じにどこか安心をする。相手もわたしも変わらなければ、ずっと続いていけそうな気がするから。悪く言えばマンネリだけど、それが一番の恋愛の理想かもしれない。

苦しくても、辛くても、たまにある瞬間に恋愛の幸せを享受する。まるで、織姫と彦星のように。彼らは一年に一度しか逢えなくて、7月7日のその日まで会いたい気持ちと懸命に闘う。きっと、苦しくてしょうがない。そして、七夕に彼らは出逢うものの、1年のうちの1日というのはあっという間で、再び彼らは長い長い遠距離恋愛を始める。ほんの一瞬だけれど、その瞬間は間違いなくどうしようもなく幸せなのだ。
その一瞬の幸せのために、わたしは恋愛をやめられない。

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「七夕/模倣文/フチ子」への3件のフィードバック

  1. 「どこか安心をする」「どうしようもなく幸せなのだ」とか、言い回しがすごくよく再現できていると思った。でも、この結論は彼女なら言わないだろうなと思う。やめられなさはそんなに簡単に説明できない気がする(知らないけど)。

  2. 求められている言葉をわかったうえで、柄じゃないと思いつつ、でもその通りに返答しそう、と勝手な印象を抱いています。恋愛がまったく全て綺麗なものでないともう分かっていても、せずにいられない感じがとても良く出ていると思います。

  3. 題材を含め、文の雰囲気はよく寄せているなと思いました。
    恋愛観は人それぞれで、それをなりすましことは難しいことだと改めて思った。

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