ムーンリバー/模倣文/ノルニル

好き、が唇から零れた夜は、とってもうつくしい夜だった。

頭のちょうど真上で輝くまんまるい月。月光を受けて銀色に輝くアスファルト。頬を撫でる湿り気を帯びたぬるい風。それらが包み込む、私のささやかな「好き」。

え、と君が小さく声をあげて私を振り返った。立ち止まる私、立ち止まるあなた。心臓がきゅっと締め上げられて、甘い気持ちが蜜のように溢れ出す。ずっと秘密だったあなたへの好き。

ああ、どうしよう言ってしまった。
上手く取り繕うことができなくて、俯いて唇を噛みしめる。言いたいことはたくさんあったはずで、何度も何度も頭の中で繰り返しこの場面を思い描いてたというのに。

月光を背に負うあなたの表情がわからない。
困ってるかもしれない、怒ってるかもしれない。もしかしたら、泣いてるかもしれない。

終わりなのだ、と私は悟った。
あなたとふたりで出かけるのが楽しかった。見たことないもの、聞いた子がない音。ふたりで「はじめて」を味わうのはうれしかった。
あなたと居るのは苦しかった。あなたの何でもない一言に舞い上がったり、落ち込んだり。何も知らなず笑うあなたを恨んだ夜もあった。
あなたのすべてが大事だった。結い上げた髪、三白眼の目、跳ね上げたアイライン、香水の匂い。
あなたの漏らす何気ない一言を全身で聴いた。あなたの見せる全ての表情を網膜に焼き付けた。
私は、あなたでできていた。
もう、終わりなのだ。
ぬるくてやさしい風が二人の間を通り抜けた。足元に落ちたあなたの影が、銀色の川を割る真っ暗な谷をつくりだす。
飛び越える勇気は、私にはない。
不意に、あなたの唇が動いた。私は顔を上げた。白い腕が此方へ伸びてきた。私は唇を動かした。あなたが笑った。私は、私は。

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「ムーンリバー/模倣文/ノルニル」への5件のフィードバック

  1. 狂気じみたときのノルニルさんが、すごくよく再現できていておもしろかった。本人じゃないよね??

  2. 美しさだけを抽出、或いは切り取ったようなわざとらしさ、それによって生まれるレプリカみたいな美しさ。美しさにはいろいろあるけど、私の思うノルニルさん感はそれで、綺麗なんだけど綺麗すぎてぞっとするような感じがあった。生きてる感じがないっていうか。それがうまく表現されている。
    でもなんかこう、書かれている文章がシンプルで、動きにしたらあまり動きがないように見えるから、なんか写真みたいな感じもある。写真にしろレプリカにしろ、要するに本物見たまんまじゃない創られた物語なんだろうなと思う。ああ、小説だ。物語だ、みたいな。それがどうとは言わないけど。

  3. 文の中の薄ら怖い部分が上手いです。風景の淡いところを描写するあたり。読んで、女の子だと感じさせる書き方。
    決定的な現場で終わるのは期待に胸が膨らみます。ただノルニル文はあまり人と関わらないような気がしていて、二人の関係が変わるというのはいいものなのですけど、ぽさがそこで崩れたのかなと。

  4. タイトルがまずノルニルさんらしいと思いました。そして文章。表面はとてもよく真似できていると思いました、が、真似をしようとしすぎて綺麗すぎます。多分書き手さんはノルニルさんの文章がとても綺麗だとおもっている人なんだろうなと思いました。これはノルニルさんの文章という感じではないけど、文章自体が私はかなり好きでした。ほんとうにきれい。

  5. ノルニルさん自体が色々な文体を取り入れているので判断が難しい。こってこての目を焼く華美さは確かにノルニルさんの一つの特徴のような気がして、でもなんだろう。サンプルというコメントの表現に納得。本物のノルニルさんだったら、もっと作りもの感がありそう。
    比喩の導き出し方が違うのかも。完全な印象論で自分でも何を言っているのかわからないことなんだけど、この比喩は書いた人の内側から出てきた比喩で、ノルニルさんの比喩の編み出し方はもっと違うのかもしれない。

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