夏の日/夏/きりん

 その日は私の退院日だった。うかつにも足を折ってしまい、一か月も退屈な病院暮らし。やっとお日様の元に出れた~と思ってたら、入り口まで了輔が来ていた。
「おばさん、来れないって聞いたから。荷物持ち、必要でしょ?」「ふんっ!いい心がけね」本当は一人でタクシーに乗るのも嫌だったから、すごく嬉しい。
 入院中も顔は見ていたけれど、この優しい幼馴染と並んで歩けることにいつもの生活を実感する。そして私が一方的に癇癪を起して喧嘩になるのもいつものことだった。「了輔のばかっ」わざわざ家まで送ってくれたのに、結局そんなことを言ってドアを閉めた。
 了輔が事故に巻き込まれたのは、そのあと。うちからの帰り道だったそうだ。

 今日はずいぶんいい天気だ。綺麗に晴れた七月のあたま。さわやかな風が彼女の裾を揺らす。君ならあのお気に入りの白いワンピースを着ていそうないい日なのに、残念、今日は黒なんだね。
傍へいって、声をかけた。
 気晴らしに散歩でも行こうよ。その、えっと、仲直りがしたいんだ。
 まるで僕に気づかないかのように知らんぷりで、彼女は瞳からぽたぽたと雫を滴らせたまま、一生懸命に前を見ていた。
 震える君の手にそっと手を重ねてみる。
 まだ怒ってる?そんなに怒らせたなら、謝るよ。意地悪しないでほしいな。
 やっぱり気づかないみたいだ。重ねた手を握り締めて、彼女がうつむいてしまう。僕はそのまま隣に立って話しかけた。
 ねぇ、君にこれだけは伝えておかなきゃいけない。あれぐらいの間違いは生きていればよく起こることだ。そんなに気にしなくていい。こうやってさ、僕はちゃんと君の傍にいるから。もしまだ気にするようなら、いつもみたいにぎゅむって、ほっぺをつねってやるよ。それでおあいこだ。
 もうそろそろ行かなきゃ。これをいうのは、照れるんだけど。あのさ……愛してる。
 あ~あ、まだ泣いてる。僕は、僕がいなくなってもちゃんと飯食って、お風呂入って眠って、そうやって君に生きていってほしいよ。君は意地悪だし意地っ張りで心配だけど、もう僕はいない。一人で生きていくんだ。ほら、もう泣き止んで、涙拭いて、顔上げて?そしたらいつかは幸せになれると願おう。
 触れられない指先で彼女の頬を拭う。ついでにちょっとぎゅむっとつねってみる。これでおあいこ。
 僕の分まで笑わなくていい。けど、だから僕の分まで泣かなくていい。いつかは時が君を癒し、今この瞬間も過去のものにしてくれるだろう。
 眼下の景色がぐんぐん遠ざかっていく。君の姿もやがて点になり、見えなくなって、それでも僕は昇っていく。
 今日はこんなに晴れているから、ほら、もしよければ散歩でもしにいこう。
 ああ、君に会いたい。心からそう思うよ。

EGOIST/goast of a smileより

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「夏の日/夏/きりん」への1件のフィードバック

  1. 歌詞から物語を想像するのって楽しいですよね。かかれていない部分を歌詞のイメージから外れないように、そういう制約があったほうが、逆に想像が膨らむのかもしれません。

    若干引用が多いかな、という感じです。そこら辺の調整はとても難しそうです。

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