Re:ここから始める青春生活/夏/ヒロ

 夏と言われて思い浮かぶものとは何だろうか。無邪気な子供や大学生なんかは夏休みや海、花火なんかのいかにもなものをあげるのだろう。だが今や社会人になってしまった俺にとって夏といえばお盆休みしか思い浮かばなくなっていた。冬といえば正月休みと今やあげる側になってしまったお年玉、春はゴールデンウィークで秋はシルバーウィークだ。
 別に仕事がブラックで休みがなくて死にそうってわけじゃない。それでも長い休みはうれしいものなのだ。たとえその間にすることが積んであるゲームをするぐらいだとしても。恋人もおらず、目標もないただ無気力に機械的に日々を過ごす俺にはそれくらいしか楽しみがなかった。

 そして俺は今そのお盆休みを満喫していた。満喫といっても田舎の海の近くのじいちゃんの家に久々に来ただけなのだが。久しぶりに会ったがまだまだ元気そうで、ひ孫はまだか、なんて冗談半分本気半分なことまで言われてしまった。
 じりじりと強烈な日光が俺の都合なんて知ったことかと照り付けてくる。どうやらお天道さまにはお盆休みはないらしい。空を見上げる気力も出ないな、なんて歩いているとふと視線が右に見えるきらきらと輝く海に吸い寄せられる。今すぐ服を脱いで飛び込めばどれだけ気持ちがいいだろうか、そんな誘惑に駆られてしまう。
 クーラーの効いた部屋でのんびりと現代の夏を過ごしていたら少しは動けと家から放り出され、ぶらぶらと散歩をしているだけの現状。もちろん水着なんかあるわけなく、冷たい水に浸かれるわけもない。車も滅多に通らない道に蝉の声がうるさく響いていて、それがさらにこの暑さを実感させる。もっと海に近づけば波の音で涼しくなるだろうか。

 もう帰ろうかな、と暑さに負けそうになったそのとき目の前に思いもしなかったものが現れた。大きな麦わら帽子を被った小学生ぐらいの女の子だ。たかが、と思うかもしれないがこの辺りは高齢化が進んで近くの小学校も廃校になったはずで、小学生くらいの子でも珍しいぐらいだった。
「おじさん、なにしてるの?」
 キョトンとした目で見つめられる。おじさん、という言葉にショックを受ける。まだ二十代だし、そんな老けてるつもりはないが小さい子が見れば同じなんだろうか。
「あー、お兄さんはね、散歩をしているんだよ」
 できるだけにこやかに返事をする。心なしお兄さんを強調してだが。こんな場面が俺の家の近くで見られたら通報ものだろうが、ここは田舎の寂れた海辺の町だ。そこまで過剰に警戒することはないだろう。
「さんぽ? わかった、おじさんも海まであそびに来たんだね!」
 にぱー、と女の子が笑う。見るものがなんでも面白い時期ってやつなのか。よく見ると手が泥だらけだ。砂浜で砂遊びをしていたのだろう。すぐ近くの砂浜に小さな山があるのが見えた。
「まあ、そうかな。海ってやっぱり見てて落ち着くんだよな。何より冷たくて気持ちいいからな」
「おおー、ひなにもわかるよー。海ってひんやりしててべたべた―ってかんじでいいよね」
「べたべたって、まあ塩水だしそうだけどさ。それより一人なのか、今日は一段と暑いしそろそろお母さんたちのところに帰った方がいいんじゃないか?」
 そのあまりの無邪気さに何だかこちらの気も抜けてしまう。
まあ日差しも蝉の声もさっきより強くなってるんじゃないかいうほどの暑さだ。それにいくらここが人も少ない田舎町でそうそう危ないことがなくても親は心配しているに違いない。
 俺がそう言うとひなちゃんもしばらく考えて頷いた。
「そうかも。ひな、そろそろかえるね。おばあちゃんがアイスかってきてあげるっていってたし!」
「おっ、それは早く帰らないとアイスが溶けちゃうんじゃないか?」
「えっ、じゃあすぐにかえらなきゃ! おじさん、じゃあねー!」
 少し意地悪してそう言うとひなちゃんはだいぶ焦ったのかすぐに駆け出して行ってしまった。ちゃんと帰れるのか? と少し不安に思ったが向こうからどことなくひなちゃんに似た女性が現れて、ひなちゃんを抱きしめた。たぶん母親だろう。ひなちゃんも笑顔で抱き返してるし。
 そこまで見届けると俺は振り返って今まで来た道を歩き始めた。さっきの少女の屈託のない笑顔を思い返してあの元気が若さってやつか、なんて呟きながら。
 とりあえずこの休みが終わったらやれるだけがんばってみるか。目標はマイホームとじいちゃんたちにひ孫を見せるってことで。まあまずは彼女をつくるところから、かな。
 見上げた空は雲一つなく透き通るような青だった。

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「Re:ここから始める青春生活/夏/ヒロ」への2件のフィードバック

  1. 少女にあってからの主人公の心情の変化がわたしにはわかりずらかったです。夏らしい自然の描写が沢山あって豊かでした。

  2. 社会人設定なのに男性がちょっと学生っぽい印象を受けた。
    前向きな夏っぽいストーリーで爽やかに読めた。

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