中の中の奥/夏/縦槍ごめんね

そのとしは夏の不思議な、嘘のようなお話。

夏になり、僕はいつものように学校のプールに向かった。小学校のプール独特の塩素の臭いと、手入れされていないプールサイドが許せなかったが、水のなかに入ってしまえばそんなこと関係なかった。こんなに気持ちのいい世界があるのかと毎回新鮮な感動に浸っていた。プールがあるだけで僕はこの季節が好きだった。

その日も僕は水の中を存分に堪能していた。記録的な猛暑日に冷たい水は僕だけでなく、そこにいる全員を癒していた。またその状況に僕を含めた皆のテンションはその夏のピークを迎えていた。僕は目一杯息を吸い込んで下に下にと潜っていった。

しばらく潜って周りを観察していると、プールの排水口が少しだけ開いていることに気がついた。水難事故のニュースは先生からよく聞かされて、注意を促されていたのですぐにこの状況が危ないということが分かった。しかしここで僕がこの排水口を見て見ぬ振りをしてしまったら、他の誰かが事故にあってしまうかもしれない。怖くなった僕はその隙間を塞ごうとした。今考えればなぜその時に他の人に相談しなかったのだろうかと、自分の行動を悔やんでも悔やみきれない。つまり僕はその中に吸い込まれてしまったのだ。

あっという間の出来事だった。排水口の金網のずれを直そうと、そこに触れた瞬間に物凄い水の勢いに飲み込まれ、すぐに息が苦しくなった。死という言葉を考えることもできないほどその水圧の中では僕は無力だった。もがくことも出来ずに意識はどんどん薄れていった。もうほとんど僕の身体と脳が機能しなくなったとき、僕はいきなり硬いコンクリートに叩きつけられた。そしてその衝撃と共に遂に意識を失った。

「おい、小僧。起きんか!」聞き覚えのない声で目が覚めた。身体中に激痛が走り、ちゃんと起き上がることが出来なかった。少し落ち着いて声の方を見てみると。某モリゾーのような体毛ボーボーの叔父さんが目の前に立っていた。正直、状況を何一つ理解することが出来なかったが、その困惑をモリゾーは察したのか、この場所と自分が誰かということについて説明し始めた。

モリゾーの本名は織部信太というらしい。そしてここはこの水脈の中に謎に空いた唯一空気のあるスペースらしく、僕は本当に運よくここにたどり着くことが出来たのだということが分かった。モリゾーはここに40年近く住んでいるらしい。このスペースは海とも繋がっているらしくかなりの頻度で魚も獲れるらしく暮らしには不便していないそうだ。用を足すにもどこもかしこも天然の水洗便所なので臭いも全然気にならない。案外快適な生活をしていると彼は語った。しかし、この生活の欠点はその退屈さらしく久々すぎて僕を起こそうと声を出すのに時間がかかったらしい。

とにもかくにも僕は九死に一生を得た。しかしすぐに、この生活に限界を感じることになった。まずは猛烈にお風呂に入りたくなった。痒くて痒くて堪らないのだ。そして、服が海パンしかないので普通に生活していても生傷が耐えなかった。最も僕を苦しめたのが家族に会いたいという気持ちだった。つまり寂しくて寂しくて堪らなくなったのだ。毎晩、お父さんとお母さんのことを思い出して泣いていた。モリゾーは心配して側で寝てくれた。正直臭いので止めて欲しかった。

モリゾーと暮らし初めて2ヶ月ほどたったある日、水の流れる音が聞こえないところがあった。理由は分からないがそこの水が干上がったか、止まったか。上で水がなくなる何かが起こったんだと思った。これは、千載一遇のチャンスだと思いモリゾーの反対を押しきって僕は上に進んだ。結局モリゾーも着いてきてくれた。

ところがどれだけ進んでも地表には出ることは出来なかった。しばらくすると、モリゾーが僕を止めるときに恐れていっていたことが起こった。目の前から水の音が聞こえ始めた。モリゾーが僕の腕を引いて血相を変えて走り始めた。一度、あの水のない空間から離れてしまっては、二度と戻ることは出来ない。そうモリゾーが言っていたことも思い出した。どんどん迫ってくる水の音に、足の震えが止まらなくなってきた。モリゾーが引っ張ってくれないとまともに立っていられないほどだった。そして、いけないと思っていたが僕は水の音のする方を見てしまった。その瞬間僕たちは、激流に巻き込まれた。

一度体験したことはあるが、ほんとに、この時ばかりは何も考えられなくなる。ただ今回はモリゾーが激流の中でもずっと僕の手を握ってくれている感覚があった。そして、意識を失った。

しかし、僕達は再び水のない空間に叩きつけられた。その瞬間、奇跡的に戻ってこれたのだと安堵し眠りについた。

「おい、裕太。起きろ!」その声で目が覚めた。しかしその声の主はモリゾーの物ではなかった。隣を見るとモリゾーは、まだ眠っていた。それは父親の声だった。目の前に父親が立っていたのだ。初めは何が起こっているのか理解が何も出来なかった。そして父親の後ろに目をやると、見たこともない大きな都市が広がっていた。

モリゾーも目を覚まし、父親は今の状況について話始めた。僕がプールで事故にあったことを知った父と母は僕を追いかけるという暴挙に出たそうだ。まぁ当たり前のように水流に飲み込まれ気がつくと、ここについていたそうだ。ここにはすでに文明が発達しており、人口は二万人の都市を成しているそうだ。母もここにいるそうだ。そして、海底都市はここだけではなくいくつも存在していて、都市間で貿易も、行われているらしい。

あまりに突拍子もない状況を初めは受け入れることが出来なかったが、僕はそこで普通に暮らし始めた。今ではもう学校にも通って、地上にいたときと何も変わらない生活を送っている。そして海底都市にも、夏は来る。まあ普通に温度が上がるのだ。そんなときのプールは最高だ。塩素の臭いと手入れされていないプールサイドだけは許せないが、水の中に入ればそんなこと気にならなくなる。

やっぱり夏は特別不思議だ。特にこの都市は不思議な、嘘のようなお話だ。

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「中の中の奥/夏/縦槍ごめんね」への1件のフィードバック

  1. 〜だった。など文末が全てにかよっていることによって文章全体が単調でつまらなくなっている気がします。
    オチがよくわからなくてもったいなく感じました。

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