楽しみ/夕方/竹

秋の夕方。風は少し冷たく、ほんのりとキンモクセイの香りがする。ちょっぴり寂しい、あの秋特有の、空気やにおいを堪能している…場合ではない。私にはさっさと家に帰ってやらなければならないことがあるのだ。

 

学校からの帰り道、すぐに家に入れるように家の30メートル手前でバッグの中から鍵を探す。ごそごそと探していると、手にやわらかくてふわふわしたものが当たった。鍵につけているキーホルダーだ。よかった、鍵があった、と安心しながら速足で家に向かう。階段をのぼり、すばやく鍵穴に鍵をさし、ドアを開けた。家にはだれもいない。一人暮らしをしているのだから当然だ。実家に帰りたいと思いつつも急いで靴を脱ぎ、バッグをベッドの上に投げ捨て時計を見ると、4時20分。余裕だ。私はテレビの前の座椅子にどさっと座り、早速テレビをつける。なんだか小腹が空いたと思い、冷蔵庫に向かう。今日はヨーグルトを食べることにした。

 

そうこうしている間に、あっという間に4時30分になった。私は席についてテレビを凝視する。軽快な音楽とともに、それは始まった。例のごとく、パーソナリティーが私たちの健康状態を聞いてくる。私はまあまあ元気だ。彼らも元気なようだ。そして彼らの進行で番組は進んでいく。今日の最初のテーマは「おにぎりの具は何にするか」だ。彼らはテンプレートを述べた後、観客の1人か2人におにぎりの具をなににするか聞く。観客は、おにぎりの具を鮭とこんぶにするようだった。

 

最初のコーナーの余韻に浸る間もなく、番組は次のコーナーへ。次のコーナーは、2人の幼馴染と、記憶を失ったもう一人が、記憶を取り戻しながら様々なことに挑戦するというストーリーの劇だ。この劇にはときどき、不本意ながら感動させられる。

 

劇が終わると、少し頭を使うコーナーが始まる。このコーナーはオムニバス形式で、毎日少しずつ違う事柄が取り上げられる。今日は仮面が似ているものを入れ替え、それを観客が当てるというまちがいさがしのようなコーナーだ。今日の観客はやたらと威勢がいい。仮面の滑稽な声や動きに微笑みながら、番組は最終局面へと向かう。体操インストラクターとともに、観客たちが踊る、走る。彼らの姿に自分の過去を重ね合わせ、懐かしい気持ちになったり、そのはしゃぎまわる姿に、時には吹きだしたりもする。

 

いよいよ番組はエンディングに入る。「夢は大きいほうがいい」という趣旨の歌に乗せ、先程の劇に登場した2人の作るアーチを観客がくぐる。観客の盛り上がりは最高潮だ。歌の終わりに、上から風船が降ってくる。風船は夢の象徴なのだろうか。観客たちは夢中でそれをつかまえる。これで番組は終了だ。ふぅ、と私は一息ついた。今日も楽しませてもらった。

 

私が毎日、夕方に見る番組。

 

 

そう、それは、「おかあさんといっしょ」。

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「楽しみ/夕方/竹」への4件のフィードバック

  1. 「おかあさんといっしょ」、懐かしいです。たまに見て、小さい頃を思い出しちょっと泣きたくなることがあります。

  2. 何を見ているのか考えながら読みましたが、おかあさんといっしょは全く分からなかったです。模倣文の回でも近いものがあったのですが、大学生が真剣に見ていたのがこれとは驚かされました。

  3. 文章としてきちんと纏まっていたのは良かった。ただ視点の感情があまり表されないから共感が薄くなり、「うん、それで?」で終わってしまった。もっとコントラストを付ければ良かったのではないでしょうか。

  4. 最後の最後まで番組名を明かさないとこが文章全体を面白く仕上げることができました。冒頭に番組に遅れないように急いで家に帰るという描写もよかったです。唯一番組の全てのコーナーを詳しく書くというのは面白く感じる人もいれば、長く薄く感じる人もいるだろう。ただ夕方のテーマをこの時間帯に放送番組と解釈するのはやっぱりいいです。

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