ラグナロク/夕方/Gioru

わざとではない。

と、言えば噓になる。僕にとってはちょっとした悪戯だった。

 

僕のクラスには二つのグループが存在する。僕が中心のグループと彼が中心のグループだ。

二つのグループの性質は正反対と言ってもいい。いつもバカやって騒いでいるクラスの盛り上げ役が僕たち。しょうがない奴らだな、なんて皆はよく笑っていた。

 

彼のグループは、その人望というのか人の好さでみんなが尊敬しているようなグループだ。

そんなグループの中心にいる彼はどこか儚げで、ふとすれば消えてしまうような弱さを醸し出していた。それだけなら、ただ顔の整った庇護欲のそそる青年だっただろうが、彼にはカリスマがあった。クラスの皆を彼の一言でまとめ、導き、笑顔にしていく。太陽のようなやつだと思った。

 

彼は特別に何かをするわけではない。そんな彼のもとに、何故か皆は集まって笑顔になっていく。

僕があれこれやって、自分が傷つくようなことをしてようやく手に入るものを、彼はそのしぐさの一つで手に入れていくのだ。笑顔が欲しくてやんちゃをやるわけじゃない。自分が楽しむためにやっていて、それが周りから評価されただけに過ぎない。

 

それでも、何もせずに手に入れていく彼がどうしようもなく眩しく見えた。

頭がズキズキする。体は火照るというか、胃の中に煮えたぎった鍋を直接入れているかのように感じる。それが何なのか、言葉にすれば一言で済むが、余りにも滑稽すぎて笑えない。

彼は決して何もしていない訳ではないのだろう。僕からはそう見えただけ。

 

きっかけは些細なことだった。偶然と言ってもいい。

どんな流れだったか、夏も終わるからと、皆で花火をしようという話になった。

18時。学校の近くの砂浜に集まることになった。水平線に沿って朱く染まり、かと思えば空は真っ黒。夜になり切れていない、そんな時間。

 

誰かがまとめて買ってきた花火セットの中から、皆が好きな花火を選んでいく。僕たちも二刀流とか言いながら、花火をグルグル振り回していた。

それでも飽きはやってくるもので、ふと設置型の花火が目に入る。思わずニヤリとした。

今、彼はグループでちょっとした輪を作ってそこで花火をしている。

彼に気づかれないように忍び寄り、花火の導火線に火を付けて彼の前にばれないように置く。配置場所は、ぎりぎり火花が彼に当たらない位置だ。

きっとビックリするだろう。驚いた彼にちょっかいを出してやるのだ。

 

 

そう思っていた。

 

花火に気づかなかった彼は話に夢中になっていたのか顔を前に出してしまった。

誰かがあっ、と叫んだ気がした。

導火線についた火は止まるはずもない。

 

 

色々なことが片付いたのは次の日の同じような時間。彼は無事ではあったが、しばらく入院することになった。当然、非難は僕にやってくる。庇ってくれるやつらもいたが、それ以上に、原因は僕にあるのだからと散々に罵るやつらのほうが多かった。あれが人のやることか、と。いつもの明るさはクラスに存在せず、重力が二倍にも三倍にもなったかのように空気が重かった。

学校からは一週間の停学を通告された。

 

たった一度のことであった。失敗だったのか事故だったのか、故意だったのか。自分ですらわからないことではあるが、ともかく、僕は悪者になった。これまで、結果的にではあるがクラスを盛り上げてきた自分が。もはや笑うしかない。

 

昨日は水平線にそれは綺麗な紅が映えていたのに、今日はどこにも見当たらない。辺りは真っ暗で、それほど大きくはないがどんよりとした雲が割と近くに見える。

 

明日辺りに一雨くるか。ざーっと降って終わりかもしれないが。

なら、明日は真っ赤になるかもしれない。

どうせすることがないのだ。なら見に行くことにしようじゃないか。

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「ラグナロク/夕方/Gioru」への4件のフィードバック

  1. 悪ふざけのつもりがとんでもないことに、という話はよくありますね。今回の彼に言いたいのは、事故かもしれんが9割方故意だよ、ってことですね。
    夕方に縛られてしまった印象が否めません。彼の運命を狂わせた花火は夜にやったものですし、水平線に見える紅はおそらく夕日か夕焼けかな、とは思うのですが、取ってつけたような感じがします。それならば、トリガー自身を花火ではなく夕方にまつわる者(と言っても難しいのですが)にした方が良かったのかなあと思います。

  2. 楽しい時間が、少し調子に乗ったりやり過ぎたりしたことによって失われてしまうのって、なんだかとてつもなく萎えて恐ろしい。その鬱感は全体からよく表現されていると思う。
    彼のことがスペック(?)でしか説明されておらず、特にエピソードもないので「儚げ」で「太陽」?と少し謎だったせいか、ショックがそれほど大きくなかった。やっぱり、ある程度物語がないと、入り込むのって難しい気がする。字数があるから大変だけど。
    そして、個人的にラストは中途半端に持ちなおさずに、もう死んでしまおうかくらい超絶鬱エンドでもよかったのではないかと思う。

  3. ふざけたいたずらが大事になるのはやはりつらいな、なんて感じます。自分の中にあるその人への感情が良いものだけではなかっただけに、好きな人へしてしまったこととは別のつらさがあるのかもしれないです。
    どんよりした後の赤い夕焼けは明るいもののように思えてしまい、状況的に主人公の心情がよく分からなくもなってしまいました。

  4. ちょっとした悪戯が思わぬ事故ことに、というのは、結果が大なり小なりよくあることですよね。
    些細なきっかけでその先の道が大きく変わってしまったのだと気づくのはいつも何かが起きてしまった後で。
    事故が起こってしまった後の主人公の心情が掴みにくかったという印象はあります。

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