夕方さがし/夕方/三水

夕方は好きですか。

きらいですか。苦手ですか。

 

初めての人そうでない人、いくつもの夕方を読みながら、どうにもこたえられずにいる。

「秋は夕暮れ」と昔の人はいうけれど、彼女の目に写った空と、千年前より幾分汚れたはずの大気を通した私たちの夕陽では、色も明度も違うはずで。

 

そんなことばかり思いついてしまう私には、きっとかなり『夕方経験値』が足りないのだろう。

というのも、思い馳せれば二十と一とせ、塾に読書の幼少期、帰宅部オタク引きこもりの3コンボを極めた青春、なんとなしに過ぎ去った(クズ大生の)日々。 一般的に想像される夕方の体験というものが余りに少なくて、それだけでもう十二分に切ないんじゃないだろうか。涙がちょちょぎれる。こともない。

 

ないもんはないので、仕方なしに作りにいった。

近所の公園に帰路の足(チャリ)のまま踏み入って、いざ行かん夕方探しへ。

…… もちろんがっつり車避けがしてあるので、11kgを担いでまたぎ越して。

 

中で乗り回してよいんだっけか。

久方ぶり過ぎて少しためらい、怒られたらやめようと思い直した。

一先ず一周してみよう。

 

思っていたより、大人が多かった。

子どもの空間に割り込む大人の図を憂慮していたのだが、なんてこともない。

ジョギングをする人、テニスの壁打ちに励む人、携帯ゲーム機を持ってベンチを占める人、そこここにある健康器具をたしなむ人。

位置情報を活用する某ゲームアプリをしながらジョギングをする猛者もいた。調べてみると、某オタマジャクシ型のモンスターの巣らしい。ほう。

 

スマホ片手に、歩いて二周目。

どうも健康器具にも人気不人気があるらしい。先の一回りとは違う人が、身体のどこかしらを鍛えたり伸ばしたりしている。一方で、閑古鳥の占拠する器具もある。

健康器具の順番待ちとかあるのだろうか。それともそこかしこで虎視眈々と、かの器具を狙っている健康オタクたちがいるんだろうか。

 

ブランコの順番と子どもの力関係を思いながら歩いていると、ふと、とある物体が目にとまった。

一言で言えば、大きな岩、だ。

曲がりくねった鉄棒に大ざっぱに囲われた、大きな岩。

 

子どもの背丈ほどある巨石は、登るのにぴったりのでこぼこ加減。朱の剥げた鉄棒もいい支えになるし、ジャングルジムの中に納まったようで居心地もなかなか。

 

子どもの頃、よく憩った巨石である。

 

秘密基地、というほどのかくれ要素はなかったが、それでもベンチや草原より数段上等な遊び場だった。

 

近づいてみると、何やら不粋な張り紙。

「キケンなのでのぼらないでください」

そうか、君は登ると危険だったのか。

足元をみると、何やら角張ったサイン。

……達筆すぎて読めない。

でもそうか、君は遊具ではなく、オブジェだったのか。

 

 

十数年来の発見と共に、もう一つ思い出す。

この岩のふもとにある、私たちのタイムカプセルを。

 

咄嗟にしゃがみこんで、岩、いや某のオブジェの足元をのぞき込む。

まばらに緑の生えた、湿った地面。

目印はたしかビー玉で、埋めた箱を中心に三角形を象った。

五年だか、十年だかしたら開けようねといって、互いにあてた手紙やら、お気に入りの髪留めやらを埋めたのだ。

 

 

うおおおお、

 

心の内で、わけのわからない勝鬨が上がる。

 

 

なんか、すごく、夕方っぽい!!

 

 

もちろん、時間帯など覚えていない。いくつだったかも定かではないし、正直何人で埋めたのかさえ曖昧だ。そして結局、誰一人掘り返そうとは(私がハブられていなければ)しなかった。

 

でも、これは、とてつもなく、夕方っぽくないか?

バカみたいな語彙で自問自答する。

きっとそうだ。

多分きっと、夕方だったはず。

私にも夕方はあったのだ。

 

日が暮れる前に帰らなくてはと、

園内に響くスピーカーに急かされながら、

名残惜しげに手を振って、

振り返り振り返り、帰ったはずなのだ。

 

光を弾くビー玉は見えない。埋もれてしまったのか、それとも流されたのか拾われたのか。もしかしたら、捨てられてしまったかもしれない。

私の夕方をもっとよく探そうと、冷えた岩肌に片手をついて、もう一方を地面に伸ばした私は。

 

・・・

 

公園の出口でも、車避けは輝いていた。

よいしょと担いで跨ぎ越す。

 

空にはまだ十分に、茜色が残っている。

急いで帰らずとも怒られはしないけれど。

 

ハンドルを握る手のひらに、湿った土のひとかけらも、もはや付いてはいないのだ。

 

 

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「夕方さがし/夕方/三水」への4件のフィードバック

  1. ああなんかいい、と思いながら読んだ。夕方と聞いて、みんなが思っているような夕方をわたしも思い浮かべることはできるんだけど、自分にその夕方があるかと言われるとどうもピンとこない。でも、いざ、追体験してみると、それが初めてではないことや、忘れていたことが思い出される、というところに共感しました。テンポもよく読みやすかったし、面白すぎない面白さが好きでした。

  2. タイムカプセルを見つけてからの視界が開ける感じが爽やかで好きです。他に主人公はどんな秋を見つけたんだろう、とこちらまでわくわくさせられました。

  3. なんか、すごく、夕方っぽい!!のところで、何となく突き放されてしまった感覚がありました。
    でも難しいです。何かに感動したときに、具体的ではないぼやっとしたものを「…ぽい」っていう言葉に置き換えて興奮することはよくあるし、自分も文に書くし。なんとなく読む人に、「分かるけど、分かりたくない」って感情を与えてしまう部分があるのかなと思いました。

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