夕焼け小焼けのその後に/夕方/ネズミ

 

今日も夕焼け小焼けの歌が町中に響き渡った。機械の調子が悪いのだろうか、いつも同じところがかすれている。この音楽が流れると、僕と同じ年頃の子どもたちはみんな家へと帰り始める。日は完全に傾き、オレンジ色の空に細長い雲が浮かんでいた。

「ええー、もう4時かよー」

2日前くらいから10月に入り、夕方のチャイムは5時から4時へと早まった。小学生にとってこの1時間は大きく、学校から帰ってきてから遊び始めると4時なんてあっと言う間に来てしまう。僕は夕焼け小焼けが流れたら家に帰って来なさいという母親の言いつけを素直に守っていた。

「おれもう帰らなきゃ。じゃあね」

「そっか、ばいばーい。たくはもうちょっと遊んでいくよな」

小学校での大の仲良しである、たくとひろゆきは門限があまり厳しくないのか、いつもチャイムが過ぎた後も遊び続けていた。そんな彼らが羨ましく、少し大人っぽく見えた。

 

次の日。いつも通りの時間に夕焼け小焼けが流れてくる。それと同時に子供たちはいっせいに帰路につく。日に日に暗くなるのが早くなっているようだ。なのに相変わらずたくとひろゆきはこの時間に帰る気配がない。そんな2人をみて思わず言った。

「今日はおれも残って遊ぶね」

どうしても2人の仲間になりたい。そんな気持ちから口にした言葉だと思う。彼らは一瞬驚いた表情を見せて言った。

「いいじゃん。でも大丈夫なの?お母さん」

たしかに心配なのはその点だ。今帰らないときっと怒られる。

「たぶん大丈夫。ちょっと聞いてくるね」

そういうとその場を立ち去った。根拠があるわけではないが、なんだか許される気がする。公園から家までは近い。夕焼けに照らされる道を全速力で駆け抜けた。

「お母さん!もうちょっと遊んできてもいい?たくもひろゆきもいるから!」

反対されようと戦うつもりでいたが、母の返事は意外にもあっさりとしていた。

「いいけど30分だけね。暗くなる前に帰ってきなさいよ」

やった!まさかこんなにも簡単に許可が下りるとは思わなかった。これで心置きなく遊ぶことができる。

「はーい!」

言い終わる前にはもう玄関のドアを開け外に飛び出していた。するとそこにはついさっきまでとは違う世界が広がっていた。チャイムが過ぎているというだけで、世界はこんなにも違って見えるのか。

良い報告ができる。そう心を躍らしながら2人が待つ公園へと向かった。公園に着くとそこに子供の世界はなかった。小学生は2人を除いてゼロ。いつも遊んでいる原っぱも薄暗さの中で、大人っぽい雰囲気を漂わせている。子どもは帰らなければならないこの時間、ここにいることに優越感を覚えた。そこに広がるのはまさに、チャイムが鳴ったあとも遊び続けることを許された者のみがいることのできる大人の世界だった。

遠くでたくとひろゆきが僕に向かって手招きをしていた。その日、僕は大人の世界の仲間入りをした。

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「夕焼け小焼けのその後に/夕方/ネズミ」への5件のフィードバック

  1. 自分もわりと門限が厳しくて、日が暮れてからも自由に遊べる友達が羨ましかった記憶があって凄く共感できた。オチも雰囲気も好きだから特に批判コメントが思いつかない。

  2. 読みやすい文章でした。しかし読んで面白かったとはあまり感じませんでした。これは小説なのかエピソード披露なのか疑問に思いました。

  3. ネズミさんらしい優しげな文章で、読みやすさと爽やかさがあると思う。しかし、なんというか、特出したものがないのであまり印象に残らないのはおそらく本人にとっても不本意な受け取られ方だろうから、その辺りについては非現実的な事項を一つ混ぜてみたり、あるいは登場人物の感情をもっと掘り下げたり、子供心に残る背徳感を抉ってみたり、何か一つパンチを効かせるとより読み応えのある文章になるのではないだろうか。
    ネズミさんの文章は毎回救いがあって個人的には大好きなので(特にオーラが見えるやつとか好きでした)、そのあたりのインパクトの強弱を調節できるようになったら素晴らしいのでないかと勝手に期待しております。楽しみにしていますので、またよろしくお願いします。

  4. 私も子供の頃は、残って遊ぶ友達が羨ましくて寂しくなっていたので、「どうしても2人の仲間になりたい。」という一言が印象に残りました。

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