無神経/夕方/なべしま

ただぼんやりと幽霊が立っている。ぼんやり立っているだけなので特に何もないのだが。
京都におわした崇徳に早良、恨むは人の霊の本懐、何やあらんと見るも心ここにあらず。ただ黙って虚空を見つめる。
それでは探偵よろしくと、何かあるかと見てみるも、さすが幽霊、ぼんやりしていて良く判らない。では人相をと拝みましても、これもよく判らない。恐れも薄れ、オイと話すと、ウウだかアアだか、そんな声を立てるだけ。どうにもはっきりしないヤロウだ、しっかりしろコイツと手を上げると痛そうな顔をする。持っていた傘でつつくと、身じろぎしたようでもある。かあいそうに、虐めるつもりはないのだ。それでも、独りはいけないだろう。これは私が構ってやらねばなるまいと心に決めた。

幼子の残酷さ、昔一度犬に可哀想なことをしまして、目の前で花火を打ち上げましたのです。それはたった一本のロケット花火。それは子供だましのような軽薄な音をさせて空へ飛び立つと思われましたが、地面の上、何に立てることもせず、そのために勢いよく地面と平行に飛んでゆきました。悪気はなく、それでも花火は犬を追い払いました。可愛らしく私に懐いていました小さな子でしたが、それきり裏山の主となりました。最後にその子を見たのは夏、虫を捕りに行ったとき、ちらと目の端を掠めて見知った毛色が走り抜け、それだけです。

日々の研鑽、ついに幽霊の好みを見つけ出した。手を上げると嫌がる。つつくと嫌がる。
そっと服の裾を掴んでやる。風船を抱えた子供のような間抜けな格好だが、もしやこの姿を嗤っているのか、どうなんだと引っ張るとワハハと笑ったようでもある。気に食わないやつだ。私は兎も角お前は何が気に食わなくてここにいるんだと聞いてみてもまた妙な声を出すだけである。そうして何度も服を引っ張ってみるが嫌ではないのだろうか。嫌なら言えと思うがどうも嫌ではない雰囲気。私は昔犬を虐めたが、悪気はなかったのだ。犬には信じてもらえなかっただろうが。何したって私はお前が嫌いじゃないのだ。お前なら私の大抵の無神経を信じてくれるだろうか。犬の話を聞き、どうにも嗤われたような気がした。やっぱり気に食わんやつである。無神経め。

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「無神経/夕方/なべしま」への3件のフィードバック

  1. 起承転結が目立ってない中最後まで気になって読ませるのは雰囲気の作りがきめ細やかで、その世界の人ならそう言うだろうと言うのがバッチリはまってるからでしょうか。軽いタッチなのに味がある。絵なら水墨、スナックならかっぱえびせん、羨ましい。

  2. 夕方というワードが一回も出てこないまま終わってしまった。けれど、これが夕方がテーマの文章だと言われてもなんとなく腑に落ちてしまう。鍛錬につくられた世界観がその一因で物語中の不揃いな感じもそれが全部包み込んでくれているように思う。過去の語りのとこだけ丁寧語になってるのいいですね。

  3. 夕方だとか、それに直接結び付くような言葉を使うことなく夕方を想起させるところが見事だと思いました。逢魔時ですかね。

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