ある寒い日の夜/食べたい/rascal

ミーティングやら仕事やらをダラダラ片付けて外を出たのはもうすぐで21時をまわるという頃だった。今日は4限しか授業がなく昼過ぎの暖かい時間に家を出たので上着を羽織って来なかったが、さすがに夜は上着がないと寒い。「失敗した」と思いながら私はカバンからスマホを出した。数時間スマホを触ってなかったのでLINEの通知が溜まっている。そのひとつひとつに既読をつけていた私はあるトーク画面を見て目を見開いた。

「まさか、そんなことになってるなんて」

どうしよう。タイムリミットはもうすぐ…いや2時間以上あるんだから余裕か。家に帰る途中に済ませれば大丈夫だ。お金もおろしたばかりだから絶対に足りると疲れた頭をなんとか回転させて家路を急いだ。

 

夜22時過ぎ。電車を2本乗り継いでようやく家の前……を通り過ぎて、24時間年中無休で煌々と電気を灯す青い看板の前にたどり着いた。看板にあるLAWSONの文字、そしてその看板の下の暖簾に“おでん全品70円セール本日最終日”と書いてあるのを見て私は思わずにやけてしまった。自動ドアが私のために開かれるとおでんのつゆのにおいが鼻をくすぐる。あふれ出そうになる涎を飲み込んでひとまず髪ゴムが切れそうになっていたので陳列棚から髪ゴムを手に取り、ルンルン気分でレジに向かった。ああ、ローソンのスタンプがほしいだけで公式アカウントを友達追加したのにブロックしなかった過去の私を褒めたい。ちょうど今日は何を食べようか迷っていたし、寒くなってきたからおでんというチョイスは最高ではないだろうか。

おでんの具は何にしよう。

やっぱり大根は外せない。味がしみ込んで柔らかくなった大根を歯を使わずに舌で押しつぶすあの感覚がたまらない。大根がないおでんなんておでんじゃない。

もち巾着もほしい。もち巾着を考えた人は本当に天才だと思う。もちと油揚げ、かんぴょうのすべてがつゆと絡まった時になせるハーモニーはその日あった嫌なことをすべて吹き飛ばせるほどのパワーがある。もち巾着はおでん界の王様といってもいいだろう。

あとメジャーなおでんの具ではないが、コンビニのおでんだったらだし巻き卵も大好きだ。普通の卵もまずくはないが半熟好きの私からすると保温機に入れっぱなしにしていたせいで火が通り過ぎている卵の黄身のポソポソ感が若干残念な感じがする。それに比べてだし巻き卵はすごい。噛んだ瞬間にだし巻き卵が本来含んでいただしとつゆが口の中に一気に広がる。ああおでん最高。

大根ともち巾着とだし巻き卵は絶対買うぞと意気込み、レジのお兄さんに話しかける。

「すみません、おでんもください」

「はい、本日全品70円となっております。ここにあるので最後なので、この中からお選びください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言われて覗き込んだ保温機の中には大根ももち巾着もだし巻き卵も1つとして残ってはいなかった。

 

 

 

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「ある寒い日の夜/食べたい/rascal」への5件のフィードバック

  1. おでん食べたくなりました。コンビニのおでん、買ったことなくて、あれって自分でよそってから買うのか、店員さんにこれくださいって言って買うのか分からなくて、変なことをして恥をかきたくなくて買わずにここまで生きてきました。
    終わり方が私的にはうーんと言った感じです。途中までおでんの美味しさとか、引き込む部分が多くあったのに最後でえっ、みたいな。ここで終わり?みたいな。オチとして、買おうと思ったおでんがない、というのは良い案だと思うのですが、その表現の仕方でもっと良いものになると思います。

  2. 最後の店員さんのマニュアル的な対応好きです。ないって気づいてからどんな反応をしたのだろうと考えてしまいます。
    おでんに対する愛が伝わってきてそれも良かったです。

  3. コンビニのおでんとても美味しいですもんね。否が応でもおでんに気が向かざるを得ない心理状態、情景が絶妙でした。
    個人的にはもう少し言葉を省いたほうが文に入り込みやすいかなと感じました。

  4. ひとつひとつの具材の良さやこだわりなど描写がとても上手い。おでんを食べたくなりましま。LINEの通知からのなんだろうという期待感と最後にオチがついていて面白かったです。

  5. むしろ彼には美味しいおでんを食べて終わって欲しかった。なんとなく、オチが読めてしまったのでそれを裏切る形ということも含めて。この季節だからこそ書ける、食べたくなる文章でした。

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