グルメ/食べたい/なべしま

祖父の代から一世紀、積み重なった蔵書が地層と化した中に幾つかの虫喰いを発見した。切り絵でもこうは綺麗な曲線を描けまいと思われるほど、絶妙な齧り跡である。幾つかの名詞と、助詞とが欠けていて、読解は可能だが居心地の悪い部分で文が途切れる。不快に耐えつつ文を追っていると、三匹の紙魚が生息していることが判明した。
一匹の好みは米であり、炊いた米や雑炊、お粥などが余さず消えていた。私は前後の文脈や水分量からそれを推理しなければならなかった。
二匹目は西洋かぶれなのかパンばかり食べている。酷い時には穫り入れ前の麦でさえ餌食になっていた。父親の代に数を増やした洋書も、辞書で調べたらしくbreadとある部分が狙われている。ただ勉強不足か、breakfastの途中まで食べ、慌てて中止した様子も見受けられた。
残りの奴の判別には時間がかかったが、どうやら祖父の代の蔵書が好みらしく、最下層が広範囲にわたって食い荒らされていた。その中でも特に年代物の酒類ばかり狙い澄ましている節があり、高級志向な奴もいたものだ。

私も一家を継ぐ身であり、雑多な蔵書は家宝である。紙魚をのさばらせておく訳にはいかない。よって紙魚どもには米やパンを馳走してやったのだが矢張り口には合わなかったらしく、仕方ないので総じて追い出させてもらった。晴天、わさわさと庭の木陰に逃げ込んだのを見届け、本の間にラベンダーの香りの紙片を挟み込んでおいた。これでもう二度と帰ってくるまい。気が向けば、要らぬレシピ本などをくれてやろうと思う。

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「グルメ/食べたい/なべしま」への3件のフィードバック

  1. 同じ文字ばっかりを狙ってくる虫食いとは面白いですね。過去に何かインスピレーションを感じる出来事でもあったのでしょうか。breakfastのくだりとか結構好きです。
    せっかく面白い発想で書かれているので、少し短いかなあと思いました。もうちょっと続きというか内容を濃くしたものが読みたいですね。

  2. 発想が面白いですね。
    虫食いと聞くとあまりいいイメージは湧きませんが、同じような言葉ばかりを追う虫なんてものを見つけると、少しわくわくします。
    とはいえ、家宝のような本を荒らされているとなると、笑っている場合ではないでしょうか。

  3. 好みがある虫なんてかわいいなと思い育てたくなるような気がしますが、本を食べられてしまうと困りますね。

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