プリン/食べたい/杏仁

「これ、あげる。」

「なに、それ。」

「さっき友達からもらったプリン。いらないからあげる。」
去年の秋、学校から帰ろうとした時、生協の前で偶然あなたに出くわした。安物の、なんの変哲も無いプリンだったし、あなたが私に買ってくれたわけでもなかった。たまたまそこに私がいたからくれただけ。それでも私は嬉しくて、今まで食べたことがないくらい美味しく感じた。こんな些細なものでも、こんなに幸せに感じたのは、きっとあなたのせい。

 

 

彼はいつも私のことだけを見てくれていて、優しい笑顔を向けてくれる。”愛される”ということをつくづく感じさせられる。でも、何かが違うんだ。

彼は美味しいお店をたくさん知っているから、よくいろんなところに連れていってくれて、いつも当たり前のようにおごってくれる。高いディナーや豪華なケーキ、彼は私に色々なものをくれる。どれも美味しかった。ああ、こういうのを世間一般的には幸せと呼ぶのかな。そんなことを呑気に思ってる。でも、なにか満たされない気持ちが心の何処かにあるまま。どんなに高い料理も、あの時のプリンの味には少しも勝てなかった。

彼が笑顔を向けて来るたび、私もちゃんと笑えているか、不安になった。幸せそうな彼を見れば見るほど、私の心はまた、少しずつ彼から離れていく。ああ、そうか、私は彼に、同じ大きさの愛を返せていないんだ。

 

 

今まで、あなたの目に私が映ったことは一度もなかった。でも私は、ただ見つめるだけでなにもしようとしなかった。スタートダッシュを切らないといけない、そうしないと何も始まらない、そう心では分かっていながら、ずっと靴紐を結ぶふりをしていた。スタート地点に立つこともしなかった。だから、後悔さえできなかったんだ。
季節は巡って、今年もまた秋がきた。心地よい風を感じながらいつもの道を歩く。

なんとなく生協で買い物している時、ふと目に入ったプリンをひとつ、手に取った。1人で硬いソファーに座り、小さなスプーンでゆっくりと口に運ぶと、あの時と同じ、甘い味が全身を包んでくれたような気がした。

 

 

きっと、来年の秋も私は、同じようにプリンが食べたくなる。

0 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 50 votes, average: 0.00 out of 5 (0 投票, 平均点: 0.00,  総合点:0  |  
投票する為にはユーザ登録する必要があります。
Loading...

「プリン/食べたい/杏仁」への3件のフィードバック

  1. 人は思い合っていても愛の大きさが不均衡であると感じる瞬間があり、そのやりきれなさがプリンというモチーフによってうまく書き出されていると思いました。
    ただ、彼との関係がどのようなものなのか、付き合ってるのか付き合ってないのかが濁されていて、そこで「ん? どっち?」と読む方としてはつまずいてしまいました。はっきり言ってしまったら身も蓋もなくなってしまいそうだからそのバランスが難しいですね。彼の台詞とか、もう少し読者に対してさり気ないヒントがあったらなと!

  2. 自分のために連れて行ってもらっていたディナーよりも友達からの横流しプリンが嬉しいっていう感覚が理解できなかったからそこらへんをもう少し説明して欲しかった…それともそれは野暮なのかな笑。あと最後うまくまとめました感があるけどイマイチしっくりこないのは自分だけだろうか。

  3. 高級なご飯よりもあの時のプリンの方が美味しかったという感覚は分からなくないですが、それは彼という存在ありきのものだと思っていたので、彼女にやりきれなさが残る中で食べたプリンでも幸せな思い出と同じような感覚を得るのはなぜだろう、と不思議でした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。