一緒にお弁当を/食べたい/ノルニル

     気怠い65分授業の終わりを告げるチャイムが鳴るや否や、校庭に飛び出した。1年生に混じって、グラウンドにトンボをかける。同級生は来なかった。三上さんお疲れさまです、といって後輩はみんな自分のクラスに戻っていった。

     ひとり、埃っぽい部室で弁当の包みを開く。自分で詰めたタッパの中身は悲しいぐらいに色使いが単色だ。電気が通っていないので扉を開け放していたら、クラスメイトがバスケしながらはしゃぐ声が反響する。

 

     数学の演習中に眠気に襲われたのがいけなかった。何寝てんねんコラ!と教師が回転を加えながら飛ばしてきた問題集は俺の額にクリーンヒット。小声で「オリジナル手裏剣」なんて笑われる始末だ。

     休み時間に笑い話にできればまだいい。でも無理だ。だいたい俺にはクラスで居場所がない。1年生の時は部活にかまけていたら孤立してしまった。2年生はよかったが、3年生のクラスで1年生時のクラスメイトの約半数と再会。1年間のクールダウンを置いたところで、気まずさは消えていなかった。恨むぞ、2年前の自分。

     クラスの友達といえば、2年から一緒の瀬尾ぐらい。しかしあいつは「大手を振ってエロゲをやれる歳になった」と言い、嬉々として日本橋の電気街へと消えていった。

 

     タッパのふたを開ける。毎日作っているうち、卵焼きが上手くなった。いくら全体が夕食の余りや冷凍食品で茶色く染まろうと、これだけは手作りを守っている。ただ、チャーハンはだし醤油の配分をミスってべちゃべちゃだ。夏場なら間違いなくお陀仏だったろう。

     中学校でも給食がなかったから、弁当生活も今年で6年目になる。中学では弁当の中身を取り換えっこなどしたものだが、残念ながらここには相手がいない。もう引退も近く、いつまでも部室にいられないことぐらい、わかっていた。

 

     また昼休みがやってきた。今日は古典の昇者にベランダから窓をすこし開けて「かいまむ」の実演をさせられた。早くグラウンドへ行こう。そのまま河川敷に出て、4限の英語をサボってジョグをするのもいいかもしれない。マラソンシューズが入ったエナメルを引っ掴んだところで、クラスの女子に声をかけられた。1年生からずっと一緒の女バスの子だ。直接話したことは数えるぐらいしかないけど。

 

「今度文化祭で喫茶店やんねんけど、知ってる?」

「あー、そうなんや」知ってる。

「うん。でな、三上くんに頼みたいことがあって」

     女子と仲が良い運動部のメンツが寄ってきて、俺の顔を見る。なんでそんなにニヤニヤしてんだよ。

「え、手伝ってなくてごめんな」準備サボって悪かったよ。けど、今さら手伝えることとかあんの?

「えっと、そういうんじゃなくて、三上くん洋楽詳しいやろ?お店で流すCD作ってくれへん?」

 

 


 

     中学に入ってすぐのころ、いじめられていた。理由は簡単なもので、小学校のノリを引きずって俺様キャラを貫いたこと。大人になっても同じことだが、新しい環境でワケもなくえらそうな奴はことさら鼻につく。「バカヤロウ、ってなんかみかみくん、コナンみたいだね」。小学4年のときそう遠回しに諭してくれた中谷くんのことばの意味をちゃんと考えていれば良かったのだが、時すでに遅し。

 

     手塚治虫が好きで、「陰キャラ」と馬鹿にされたからヒゲオヤジの真似をして「このくされカボチャめ」と返した。次の時間、授業中に頭に丸めた紙くずが飛んできた。いびつな紙飛行機だったこともあった。止せばいいのに、開いてみるとそれらにはもれなく「くされ!」の4文字が書きなぐられていた。同じくいじめられているものどうしで弁当を食べていると「うわ、陰キャラ軍団が集まってメシ食ってる!やめてーくさるー!」と叫ばれた。中年の担任はそれを黙って聞いていた。

     ここまでくるともう武力を使うしか方法がない。護身のために、と叔父が教えてくれた少林寺拳法を、普通に自分からケンカを売って使った。リーダーを個別に呼び出すと、卑怯にもヤツは取り巻きを連れてきた。取り巻きは正拳突きと金的でしとめたが、リーダーをやる段階になって教師が踏み込んできた。お裁きの結果は両成敗、しばらくいじめは続いたがいつの間にかそれもなくなった。

 

     あいつはやばい。そういう噂が立って、「陰キャラ軍団」の友達は俺を避けはじめ、昼休みも一人ぼっちになった。部活は放課後だけの繋がり。購買にパンを買いに行く友達もいなくて、つらかった。2週間ほどそういった日々が続いたある日、意を決して俺は元・いじめっ子のリーダーに話しかけた。

 

「なあ、大北くん」

 

     すこし上目遣いで大北くんがこっちを見る。馬鹿にされてる?それとも怖がられてる?たぶん声が震えた。それでもなんとか、どうにかしたい気持ちが勝った。

 

「お昼休みやけど、一緒にお弁当食べへん?」

 

 


     2日かけたCDの選曲が終わった。結局、マイケミやグリーンデイ、マルーン5などロックやポップスをチョイスした。女子、いや、秦野さんは喜び、さっそくラジカセで再生して、もっと喜んでくれた。こんな俺でも役に立てたならうれしい。

     無事、オリジナル手裏剣は年誌に載った。明日は部室じゃなく教室で弁当を食べようと思った。

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「一緒にお弁当を/食べたい/ノルニル」への3件のフィードバック

  1. 短い中に詰めてきたなと。一周回って明るいエンドになるところは、現国の教科書のようでよかったです。多少人と話題が多いのは気になりました。瀬尾君カムバックも期待してたのですがね……
    淡々と一人称なところは混乱がなくてよいと思いますが、なんだろう、それがために少し幼く感じるところ(感情)と、大人びて感じるところ(地の文系)がちぐはくでした。

  2. 青春群像、という形で読んでよいのでしょうか。そうなら作品として楽しく読めたのですが、どうももっと深みがあるものをミスリーディングしている気になってしまって、モヤモヤします。筆者としてのカメラワークがお弁当や洋楽、手裏剣、そして人物に対しても等しすぎるのかなと思います。どれも丁寧な描写だけど、結局メインどころはどこだ、と少し迷子になる感じ。自分も陥りがちゆえ他山の石とせねば。

  3. 爽やか?という印象であっているでしょうか…。いい意味でも悪い意味でもそつないなぁと思いました。文章の運びも言葉選びも上手い一方、駆け抜けてしまうと残らないというような。

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