運命の甘い糸/食べたい/ととのえ

田舎の高校から東京の大学に出た俺は、そびえたつ高層ビル群やら数分ごとに来る電車やら、その何もかもに圧倒されていた。その中で、当時の俺にとっての一番の問題は、都会のファッションがきまってたり化粧がきらきらしている人たちになじんでいけるかということだった。せっかく東京に来てまでネクラな大学生活を送るのはまっぴらごめんだ。そこで俺は手っ取り早くテニサーの新歓に向かったのであった。

しかし、新歓に行ったはいいが、同じような田舎出身の男の同期と話してばっかりで、女子と話したのは話を振られたときくらいだった。

このまま終わるかと思っていた矢先、先輩の「おっ、ここにポッキーがあるぞー」の声。そう。ポッキーゲームが始まるのである。しかも何ということか、くじ引きの結果、去年のミスコンの最終候補にまで登りつめた先輩とすることになってしまった。

ばっちりとしたメイクに手足の長い完璧なプロポーション。これが東京のイケてる女子大生というものか。先輩から醸し出される今まで感じたことのないすごいオーラに足が動かなかったが、「お前顔真っ赤だぞ」と言われながら先輩に押されて彼女のもとへ。緊張で震えが制御できなくなっている口を動かして何とかポッキーをくわえた。

合図とともに先輩の顔が近づいてくる。ただでさえ美しい女性がものをくわえているというエロさに、強まってくる化粧のにおいもあって、今までに感じたことのないほど異性に対しての緊張を感じた。自分でもわかるくらいに心拍数が高まっている。口もさっきと同様に、いやさっき以上にうまく動かないが、それでも頑張って一口一口と進んでいった。

あと、1センチほどだろうか。のどから手を伸ばさなくても届くような距離。互いの口が止まる。あと一口。ほんの後一口なのだ。あと一口であの人に、キスすることができるのだ。なぜ躊躇する。なぜ口が動かない。何が怖いんだ?この唇に比べれば失うものなんて微々たるものだろ。お前は何のために東京に来たんだ?まさしくこのためだろう。それなのに、なんで、なんで前に進まないんだよ。

 

ぽとっ…

どちらが落としたのかもわからないが、無情にも短く、それ単体ではあまりにも頼りないポッキーが落ちてしまっていた。気づけば彼女は何事もなかったかのように先輩たちの輪に戻っていた。もう終わったんだと、現実が重くのしかかてきた。

 結局、そのサークルには入らなかった。いや、入れなかった。やっぱり無理だったんだ。まだ彼女はできてないし当然キスもしていない。だからこそ今でもあのシーンが、あの時の感覚が蘇ってしまう。11月に入り外には冷たい風が吹くようになったころ、ポッキーの品ぞろえを増やした生協を避けるようにして俺は教室へと足を運んでいる。

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「運命の甘い糸/食べたい/ととのえ」への3件のフィードバック

  1. 共感性羞恥でしたっけ、私あの感覚少しだけあるので、読むのがしんどかったです、フィクションだとはいえ。それだけポッキーを食べるところの描写が上手だったということで。前半の、入学して云々の描写と比べてしまいます。もっと導入部分、つまり主人公がどういう人物であるかどうかという説明部分はシンプルでも良い気がします。シンプルというか、こういう異性関係には慣れがない、ということだけわかれば十分かも?あ、でも、ポッキー食べてる部分でもそれが伝わってくるのでいっそいらないかもしれない。

  2. 読んでいてとても親近感がわくような描写で、主人公と一緒に感情のうつろいを経験できて楽しかったです。
    お互いの口が止まってからの時間の尺が、長いのか短いのか、あるいは長く感じられたが実際は短かったのか、読んでさらに具体的な実感がわいたらもっと楽しいと思います。

  3. 主人公視点だからということもあると思いますが、先輩の女性にミステリアスな雰囲気があり引き込まれました。またポッキーゲームしている間に周りは騒いでいるだろうにそれが描写されていないのが、妙にリアリティがあって良かったです。
    テーマでこの話を考えつく発想が本当にすごいと思います。

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